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最後のクレイジー 犬塚弘 [著]犬塚弘・佐藤利明

[評者]いとうせいこう(作家・クリエーター)

[掲載]2013年08月25日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能

表紙画像

■教養と矜持と、底抜けの悪戯心

 戦後の日本が焼け跡から復興していくとき、人々の傍らには音楽と笑いがあった。
 その代表が言わずと知れた「ハナ肇とクレイジー・キャッツ」である。音楽ライブから始まって、彼らは創成期のテレビ、日本映画の新しい潮流を一気に作り出してゆく。
 江戸の粋な文化とつながった洒脱(しゃだつ)なジャズ感覚で。
 本書はクレイジー唯一のメンバーとなってしまった犬塚弘氏へのロングインタビューである。そこにはコミック・バンドの根底にいかに深い教養があったか、強い矜持(きょうじ)を保っていたか、同時にそれらすべてをチャラにするような底抜けの悪戯(いたずら)心があったかが、事細かに再現されている。
 いや、クレイジーを囲むテレビマン、映画監督、放送作家など、昭和の大衆文化を形成する者たちすべてに右のことは当てはまるだろう。揶揄(やゆ)されがちな娯楽産業こそが戦後の民度を引っぱり上げていたことの、これは証言だ。
 全体に犬塚弘氏のリベラル感覚が横溢(おういつ)する。
    ◇
 講談社・1575円

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