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雑誌の王様 評伝・清水達夫と平凡出版とマガジンハウス [著]塩澤幸登

[評者]いとうせいこう(作家・クリエーター)

[掲載]2013年09月01日

[ジャンル]政治 社会

表紙画像

■天才的な編集者の時代の証言

 『平凡』『平凡パンチ』『アンアン』『ポパイ』『ブルータス』などなど、時代を先駆けた雑誌を作り続けてきたマガジンハウス(平凡出版から1983年に社名変更)。そこに清水達夫という天才的な編集者がいた。
 本書は清水と共に「出勤時間も取材費の精算も仕事の進め具合も服装も自由、食事代は会社の負担」という驚くべき雑誌の王国を作り出す岩堀喜之助たち、戦後の個性豊かな出版人の来歴、発言を丹念に追う。同時に、著者の雑誌論も強く打ち出されるから、編集に興味のある者、携わる者には必読の書だろう。
 特に清水の先見性、編集方針のブレなさは学ぶべき点だらけで、新雑誌創刊によって「社会の文化の質や構造、大衆の生活内容まで作りかえてしまう」こと、マーケティングよりは「身近な誰かをモニターにする」こと、「雑誌は表紙だ」など、のちにファッション雑誌などの常識になっていくことが清水の哲学によって古くから導き出されていた様を、著者は描き出す。
 そして、広告収入が販売収入を上回る「八十年代の中ごろ」から、出版界全般で雑誌がマーケットの後追いになっていく姿も。つまり雑誌が売れなくても広告で収益が上がるシステム以降のことも。
 こうして、本書は清水達夫の精神を克明に浮かび上がらせながら、木滑良久、石川次郎と続く編集人脈を写し出し、同様に時代を伴走したスターや文学者のエピソードにもすいすい寄り道する。その筆致はまさに雑誌的である。
 評者である私も、実は雑誌編集から仕事を始めた。先輩に「雑多な情報をうまくまとめるから雑誌なんだ」とよく教えられた。だからなのか、本書を読みながら、先輩編集者から教えを乞うような気分が続いた。楽しく味わい深い時間だった。「雑誌が王様」だった時代の、それは貴重な証言であり、これから再び王国を作る時の忠告でもある。
    ◇
 河出書房新社・3150円/しおざわ・ゆきと 47年生まれ。作家、編集者。70年に平凡出版に入社、01年に退社。

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