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ドレのロンドン巡礼 天才画家が描いた世紀末 [著]谷口江里也 [絵]ギュスターヴ・ドレ

[評者] 田中優子(法政大学教授)

[掲載]2013年09月01日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■近代資本主義社会へのいざない

 ギュスターヴ・ドレは一八六九〜七二年のロンドンにいた。フランス人だが、故郷のアルザスはその間にドイツの支配下に入った。ロンドンで描かれたのは、産業革命の始まりの風景である。ガス工場や蒸気船や通勤列車などの新しい道具が見えると同時に、テムズ河畔で大量の荷揚げをする労働者たち、ビリングスゲートにぎっしり並ぶニシンやタラ、船着き場で働く人々、大喧嘩(おおげんか)が起こっている夜のドックの活気が、まるで映画のように立ち上がってくる。ボートレースやダービーの熱狂も声が聞こえてくるようだ。
 その一方で花やオレンジやマッチやぼろやがらくたを売る最下層の生活がリアルに描かれる。「国民国家と産業化社会というツイン・エンジンによって駆動する近代」で、マルクスが『資本論』を著し、ドレはロンドンの貧富の差を描いた。そして二人は同じ年に没した。単なるドレの版画集ではない。その背後に始まった近代資本主義社会を、著者は丁寧に案内してくれる。
    ◇
 講談社・1995円

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