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ライス回顧録―ホワイトハウス 激動の2920日 [著]コンドリーザ・ライス

[評者]渡辺靖(慶応大学教授・文化人類学)

[掲載]2013年09月08日

[ジャンル]国際

表紙画像

■臨場感あふれる外交の舞台裏

 人種差別の激しかった米南部アラバマ州に育った著者は国際政治学者として頭角を現し、30代半ばにして国家安全保障会議(NSC)に参画、ブッシュ前政権下では大統領補佐官と国務長官を務めた。まさに現代のベスト・アンド・ブライテスト。おまけにピアノの名手でもある。
 経歴はキッシンジャーと似ているが、同氏とは対照的にあくまで大統領に忠実な閣僚たちとの仲介者に徹した。
 在任中は9・11の惨劇からテロとの戦い、中東和平交渉、イランや北朝鮮の核問題まで、次々と複雑な連立方程式への対応を迫られ、知的にも体力的にも想像を絶する重圧の日々が続いた。
 加えて、政権内部の権力闘争にも悩まされる。とりわけイラク開戦をめぐってインテリジェンス機関の情報を鵜呑(うの)みにしたことや、チェイニー副大統領やラムズフェルド国防長官などのタカ派、いわゆる「ネオコン」の影響力を排除できなかったことには無念さを隠さない。
 たとえば9・11から2カ月後には、NSCを担当する自分の知らぬ間にテロリストの拘禁に関する大統領令が署名されていたというから恐ろしい。目下、日本版NSC創設へ向けた動きが加速しているが、指揮系統の混乱・乱用の防止は大丈夫だろうか。
 その日本に対する評価は辛口だ。曰(いわ)く「日本は、停滞し老化しているだけでなく、周辺諸国からの憎悪で呪縛されているように思えた」「日本人は過敏で不安なのだ」等々。
 本書には、各国首脳との駆け引きや応酬を含め、息をのむような外交の舞台裏が生々しく綴(つづ)られている。回顧録ゆえの恣意(しい)性は否めないが、あまりの臨場感に700頁(ページ)近い大著を一気に読破した。
 著者はまだ50代。共和党内には政治の表舞台への復帰を待望する声も強い。
 シリア情勢が緊迫するなか、著者は米国による軍事介入を強く提唱している。
    ◇
 福井昌子ほか訳、集英社・4200円/Condoleezza Rice 54年生まれ。スタンフォード大教授。元・米国務長官。

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