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日本の「ゲイ」とエイズ―コミュニティ・国家・アイデンティティ [著]新ケ江章友

[評者]内澤旬子(文筆家・イラストレーター)

[掲載]2013年09月15日

[ジャンル]社会

表紙画像

■愛こそが、最大のリスク?!

 1981年、朝日新聞に「ホモ愛好者に凶報」という記事が載る。エイズに関する日本初報道だった。評者は当時14歳。以来、恐怖と思春期の好奇心に駆られ、記事を読み漁(あさ)り、気がついたら日本の男性同性愛者たちに向けられていた偏見や彼らの実像を伝える記事や書籍を読んでいた。これまでフィクションでしか知らなかった日本の同性愛者について、現実の隣人として想像できるようになれた。エイズ流行がきっかけだったのだと、本書を読んではじめて気づいた。
 本書はエイズをめぐる言説の変遷と、国家がとった予防対策、感染リスクの認知促進などの政策に、当事者である男性同性愛者たちが、どう関わったのかをこまかく検証した論文をもとに書かれた。
 エイズは感染する。公衆衛生(国家)の立場からは、防疫の対象。感染の危険が高い場所や行為を特定し、リスクを数値化して把握せねばならない。しかも感染源は空気でも大腸菌でもなく、体液。性行為のバリエーションや交渉人数という、個人のプライバシーにまつわる領域に深く踏み込んでの調査が必要だった。
 外側からの非難や差別、管理介入される屈辱に抗するため、同性愛者たちの多くはコミュニティーを作り、実態調査や予防のための啓蒙(けいもう)に主体的にかかわり、社会の中で可視化される存在になる道を選んでゆく。一方国家は国家で彼らのアクションを予防に効果的と歓迎し、国家予算を投入していったという。ある種の利害一致というべきか。
 なるほどそういうことかと思う一方、著者が最後に投げかける、感染は必ず避けねばならないものなのかという問いが重く響く。評者自身、癌(がん)に罹(かか)って以来、病と死を積極的に受け入れたいと願うようになった。ならば感染の可能性をお互い承知で受け入れる生き方も、刹那(せつな)的だと否定するのもおかしいのかも。「愛こそが、最大のリスク」?!
    ◇
 青弓社・4200円/しんがえ・あきとも 75年生まれ。名古屋市立大学男女共同参画室プロジェクト推進員。

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