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流動化する民主主義―先進8カ国におけるソーシャル・キャピタル [編著]ロバート・D・パットナム

[評者]水無田気流(詩人・社会学者)

[掲載]2013年09月15日

[ジャンル]政治 社会

表紙画像

■重要な地域社会の人間関係

 絆やつながりの大切さ。東日本大震災以降のひと頃、これが盛んに強調されたのは記憶に新しい。震災より少し前には、孤独死や無縁死が社会問題として大きく取り上げられた。背景にあるのは、地域社会の人間関係希薄化にともなう不安の蔓延(まんえん)。もっとも、これは日本に限らず先進諸国共通の悩みのようである。
 代表作『孤独なボウリング』で、地域社会の良好な人間関係を「社会関係資本(ソーシャルキャピタル)」と呼び、それがもたらす計り知れない恩恵について論じたパットナム。その彼が、今度は各国の研究者たちとともに、先進8カ国の過去50年にわたる市民社会の変化を、社会関係資本を軸に比較検証した。対象となったのは、イギリス、アメリカ、フランス、ドイツ、スペイン、スウェーデン、オーストラリア、そして日本。表題が示すように、眼目はこれら先進諸国における民主主義の機能整備と社会関係資本の密接な関係にある。
 パットナムは指摘する。民主主義社会の形成とともに訪れた個人主義化や市民の政治離れが、皮肉にも実効性を伴う民主主義存続のための基本的な社会的・文化的前提を風化させている、と。この指摘は、アリストテレスまで遡(さかのぼ)る政治理論——民主主義の定立基盤として、市民による地域社会への積極的参画が不可欠——と共鳴する。
 とりわけ、日本の社会関係資本に関する猪口孝の検証が興味深い。独自の「市民社会指標」を用いた地域ごとの比較精査や、社会関係資本の変遷史等により、その特性について明確に論じている。近年日本では、他人への信頼感や政治参加意識は向上する一方で、政治家への一任意識は低下傾向にある。だがそれを具体的な社会参加へと結びつけるためには、市民意識高揚のための物理的・社会的なスペースや、心理的な動機付けが必要といった指摘も重要。民主主義の実効性そのものに取り組む、巨大な詳解書。
    ◇
 猪口孝訳、ミネルヴァ書房・5040円/Robert D. Putnam 41年生まれ。米国ハーバード大学教授。

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