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GHQの検閲・諜報・宣伝工作 [著]山本武利

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2013年09月15日

[ジャンル]歴史 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■見えない形の巧みな言論弾圧

 GHQ(連合国軍総司令部)は、日本占領終結後にプレス政策をどのように進めたかの報告書をまとめた。そのタイトルが、「プレスの自由」というのだが、著者によればマッカーサーら指導部は、「メディアの自由の浸透に貢献した功績を強調している」という。検閲や自由を抑圧した具体例は極端に記述も少ないそうだ。
 日本占領期にGHQの言論弾圧はいかに巧みに行われたか、その巧みさをアメリカのさまざまな機関から収集した記録文書で白日のもとにさらす。著者はその研究では第一人者であり、実際にその現実を解き明かされると大日本帝国型の言論弾圧とは異なる総合的なシステムが用いられていることがわかる。
 たとえば検閲の実務には、多数の日本人が動員される。検閲者は4年余りの間に延べ2万5千人近くに及んだという。この実態については、検閲者たちの良心の痛みもあり、戦後社会ではほとんど公開されていない。著者は、そういう検閲者の生の声も紹介している。なにより生活の豊かさの保障の前に、誰もがこの同胞を売るがごとき仕事の屈辱に耐えたとの証言は貴重である。
 アメリカの情報統制は、日本社会への軍国主義復活を阻止し、共産主義の国内への浸透を防ぐのを目的にしていたが、それらの目的はすぐに達せられたともいえる。なぜなら当時の日本国民は、GHQが鼓吹している民主主義思想をすぐに受け入れたからだ。その言論弾圧のシステムは国民にはまったく見えない形になっていた。日本の新聞や雑誌なども、当初の事前検閲よりのちに幾分(いくぶん)ゆるやかになる事後検閲に、逆に不安を抱くといった体質もあった。
 言論弾圧は、政治的システムのマイナスより、国民の精神やその内面に打撃を与える。日本で用いられた手法は、日本人捕虜の意識調査をもとにして確立されたとの記述は衝撃だ。
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 岩波現代全書・2415円/やまもと・たけとし 40年生まれ。早大、一橋大名誉教授。インテリジェンス研究所理事長。

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