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マチュピチュ探検記―天空都市の謎を解く [著]マーク・アダムス

[評者]角幡唯介(ノンフィクション作家・探検家)

[掲載]2013年09月29日

[ジャンル]国際

表紙画像

■漂う熱気、発見者の足跡たどる

 広大な荒野を苦労して旅しても面白い物語を書くことは難しい。危機一髪の出来事なんてそうはないし、単調な風景をだらだら記述しても退屈なだけだ。だからこうした探検記には、自分の旅にその土地の謎や過去の探検の過程を絡めて、読み物としてスリリングに仕上げた作品が案外多い。本書もそうした一冊で、マチュピチュ遺跡を「発見」し、インディ・ジョーンズのモデルとも言われた探検家ハイラム・ビンガム三世の足跡をなぞったものだ。
 有名なマチュピチュだが、建造された目的は今も不明である。スペインに追われた落日期のインカ皇帝が秘密裏に建造した幻の都なのか、あるいはただ単に全盛期に造られた山上の避暑地に過ぎないのか。著者はビンガムが見た風景を自らの足でたどり、この謎に愚直に取り組んでいく。
 本書で描かれるビンガムはどことなくピーターパン的だ。発見といったってインカの歴史は書物にしっかりと記述されているわけだし、遺跡だって地元の人にとっては昔からそこにあったものだ。自分が見つけた遺跡を過大評価し、幻の都どころかインカ帝国発祥の地でもあったと主張するに至っては滑稽とさえいいたくなってくる。
 それでもビンガムのことが羨(うらや)ましく思えるのは、彼の行動に滑稽なところがあっても、そこから未知とロマンが醸成した熱っぽい空気がむせ返るように立ち昇ってくるからだ。たとえ後世の人から墓泥棒と罵(ののし)られようと私はビンガムに嫉妬する。おそらくそれは著者も同じで、時代を揺るがす発見のチャンスがあった百年前の探検家と、解釈することしか許されない現代の我々との間に横たわるこのどうしようもない彼我の差を、著者は確信犯的に自らの行動と筆であぶり出すのである。
 できれば百年前に生まれたかった。私は心からそう思う。そうすればビンガムのような探検ができたのに。
    ◇
 森夏樹訳、青土社・2940円/Mark Adams 米国の作家、ジャーナリスト、編集者。

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