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那覇の市場で古本屋―ひょっこり始めた〈ウララ〉の日々 [著]宇田智子

[評者]内澤旬子(文筆家・イラストレーター)

[掲載]2013年09月29日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■本を介して地に足をつける

 8年ほど前、沖縄の版元ボーダーインクの方に、東京の版元で人文書を出す場合、初版3千部も珍しくないと話したら、驚愕(きょうがく)された。本土よりずっと小さく人口が少ないのに、沖縄県産本の初版部数も同じくらいだという。沖縄の人は沖縄の本をじつによく読むのだ。今度はこちらが驚嘆し、無知を恥じた。
 そのボーダーインクから、那覇の牧志公設市場の向かいで、ちいさな古本屋を営む女性のエッセイが刊行された。
 著者の宇田智子さんは、神奈川生まれ。東京の大学を出て、ジュンク堂書店に入社、池袋本店に配属される。膨大な点数の書籍が並ぶ巨大書店で、地方出版社のフェアを行ったのをきっかけに、地域に密着した「県産本」と出会う。
 地元の本を地元で売ってみたい。2009年、ジュンク堂書店の那覇出店と同時に異動願いを出す。
 沖縄に対して長年培った縁や思い入れがあったわけではない。けれどもそれに怖気(おじけ)づくことなく、ひたすら本屋の職業精神を発揮して、沖縄本を求めて動き出す。
 ジュンク堂那覇店で沖縄本を置く棚は、55列にもなる。他県ではありえない量だ。
 沖縄では版元だけでなく学校や自治体、個人も本を出す。本土と比べてすべての刊行物を把握するのが難しい。また年中行事に関する新刊本を餅屋に置いたら週に100冊売れた、なんてこともある。作り手も売り手も買い手も、本土の常識では計り知れない自由さがあるようなのだ。
 その後ジュンク堂を辞め、極小の古書店をはじめてからも、彼女が本を求めて一歩一歩進む姿勢は変わらない。沖縄と本の独特な事情に静かに驚きながら、拒絶反応を起こすことなく、土地の人々となじんでゆく様子が、心地よくわかりやすい文章で綴(つづ)られる。夢のようにかわいらしい店の主の足は、本を介して沖縄の地面にしっかりとついているのだった。
    ◇
 ボーダーインク・1680円/うだ・ともこ 80年生まれ。ジュンク堂書店を経て11年、市場の古本屋ウララ開店。

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