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海外で建築を仕事にする―世界はチャンスで満たされている [編著]前田茂樹

[評者]隈研吾(建築家・東京大学教授)

[掲載]2013年10月06日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能 国際

表紙画像

■ジリ貧日本から飛び出す若者

 これは現在の「出稼ぎ物語」である。
 かつて東北の貧しい農村の人々が、豊かな都市へと働きに出ることを「出稼ぎ」と呼んだ。東北の人たちは働き者で、能力は高く、しかも実直であった。この本に登場する、日本の若き建築設計者たちは同じように能力が高く、働き者である。わが事務所にも、世界中から就職志願者が訪れるが、設計図をかかせる試験をすると、日本人が圧倒的に高い点数をマークする。同じ与えられた時間の中で精度の高い模型まで作ってしまって、国によってこれほどレベルが違うのかと、しばしば唖然(あぜん)とする。
 実際にも、世界中の有力な設計事務所で、日本人は、中心的役割をはたしている。建築設計という仕事に必要な、きめ細かさ、スケジュール遵守(じゅんしゅ)、3次元空間への把握力……どれをとっても、日本人のレベルは世界のトップといっていい。しかも、安い給料でも文句をいわず、夜中まで集中力が切れずに働き続ける。
 なぜ、日本人の建築家はこれほど、海外で多くの仕事ができるのかとしばしば質問されるが、スター建築家だけが突出しているわけではなく、日本人が実は世界の建築デザインを支えているのである。
 これほど能力が高いのだから、ちょっと外で仕事をする気になれば、いくらでもチャンスが拡(ひろ)がる。しかし、昔は、残念ながら外に行く勇気のある日本人が少なかった。
 今や勇気に後押しされてというより、日本のジリ貧に押されて若き建築設計者は突如海外に進出をはじめた。日本は貧しいだけでなく、大手のゼネコンや設計事務所がしがらみや強引な営業力で、才能ある若者から仕事を奪っている。こんな日本を捨てたくなる気持ちは、いたいほどわかる。ここに登場する「出稼ぎ」の若者たちは、未来の日本人のモデルになりえると感じた。組織に頼らず、企業に頼らず、個人の能力と努力だけを頼りに飛び出したからだ。
    ◇
 学芸出版社・2520円/まえだ・しげき 74年生まれ。建築家。本書では17人の建築家・デザイナーの体験談を集めた。

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