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ヴァスコ・ダ・ガマの「聖戦」―宗教対立の潮目を変えた大航海 [著]ナイジェル・クリフ

[評者]水野和夫(日本大学教授・経済学)

[掲載]2013年10月06日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■今とつながる15世紀末の大変化

 一般的には、文字を通してよりも映像のほうが迫力あるように思うが、本書を読めば、映像を超える壮大な絵巻物が瞼(まぶた)に浮かんで想像(妄想)をかき立てる。欧米人の深層心理の構図として、なるほどと妙な合点がいく。
 例えば、9・11の際ブッシュ米大統領(当時)は「これは十字軍の戦いだ」と叫んで、テロリストだと疑うだけで外国人を逮捕できる“軍事命令”を公布した。
 11世紀末に始まった「聖戦」たる「十字軍」は「イスラームとの戦い」を「地の果てまで続けなければならない」と確信するがゆえに「不信、異教徒というだけで」攻撃してもいい。そういう理屈で1415年、ポルトガルは地中海西端にあるアフリカのセウタを奪還した。これが、ヨーロッパが世界に君臨する「すべての始まり」であって、中世後期と近現代は心性において繋(つな)がっている。
 近代は、経済的にはオランダ東インド会社の設立(1602年)、政治的にはウェストファリア条約(1648年)に始まるとされるが、古代、中世、近代といった区分は時に歴史の本質を理解するのを妨げることになる。歴史は「今」に至るまで水面下で脈々と繋がっている。それが1490年代、世界を変える三つの出来事として一気に水面上に噴出したのだった。グラナダ王国の消滅、コロンブスの「新大陸発見」、そしてヴァスコ・ダ・ガマの「インド航路発見」である。本書は三つの中でもガマの功績が大という結論を導く。
 21世紀の10年間で、9・11、9・15(リーマン・ショック)、そして3・11とやはり世界を揺るがす三つの出来事が起きた。15世紀末に起こったことに匹敵するような大きな変化が現在起きているのではと想像が膨らむ。歴史書を読む楽しみの一つはタイムマシンに乗って過去と現在を自由に行き来することであり、本書はその典型である。
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 山村宜子(よしこ)訳、白水社・4200円/Nigel Cliff 英国の歴史家、伝記作家で「エコノミスト」誌に批評を寄稿。

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