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ドキュメント電王戦―その時、人は何を考えたのか [著]羽生善治ほか

[評者]原真人(本社編集委員)

[掲載]2013年10月13日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■人間対人間のドラマだった

 この春開かれたプロ棋士とコンピューター将棋ソフトの5対5の団体戦「電王戦」を200万人がニコニコ動画でみた。棋戦を超えた「人間対機械」という意味合いに関心も高まったのだろう。
 結果は棋士側の1勝3敗1分け。チェス王者がソフトに敗れてから16年。より複雑な将棋でもついに人間が負かされる時代がやって来た。本書はこの戦いに参加した棋士やソフト開発者らの証言集だ。
 将棋ファンである作家の宮内悠介や海堂尊、漫画家の柴田ヨクサルらによるインタビューが秀逸だ。技術面だけでなく、哲学的な質問も次々とぶつけ、次第に選手たちの精神世界をあぶり出していく。
 棋士たちは「対戦相手の表情から苦しいのは自分だけじゃないと思えるのだが、コンピューターは顔が見えず苦しんだ」「100メートル走なら人間が車に負けても当たり前。なのに将棋では同じ気持ちになれない」などと打ち明ける。
 一方で、ソフト開発者たちも自局以外では棋士たちに負けて欲しくないと思ったり、対局に正装で立ち会ったり、ウエットな一面を見せる。
 作家の夢枕獏は観戦していて「無駄なことを考えないのが人間。意味のないことまで考えるのがコンピューター」と気づく。そして、その機械を制御して戦うのはあくまで人間であり、「これは人間対人間のドラマだ」という。
 ただ完全解析が可能なゲームなので、いずれ人間が勝てなくなる日は来る。それは、将棋の終わりを意味することだと皆どこかで恐れている。
 三冠・羽生善治の感想がふるっている。そのときはルールを一つ変えるだけでいい、解明された答えが遠のき、また新たな問いが浮かぶ、と。
 産業革命以来、人間はずっと機械と能力を競ってきた。SF映画では、人類の未来の敵と言えば、宇宙人か機械と相場が決まっている。本書はその戦史に刻まれる、貴重な「人間たち」の記録である。
    ◇
 徳間書店・1680円/30人近くの対談、インタビュー、執筆で構成されている。

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