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天國のをりものが―山崎春美著作集1976—2013 [著]山崎春美

[評者]佐々木敦(批評家・早稲田大学教授)

[掲載]2013年10月20日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■アングラ雑誌、彩った早熟少年

 1970年代後半から80年代前半にかけて、山崎春美という名前は常にエキセントリックな輝きと共にあった。彼が率いたガセネタとタコというバンドは、日本の音楽シーン、それも非常にアンダーグラウンドな音楽の世界において、登場した時から伝説と化していた。
 そして彼があちこちのやはりアンダーグラウンドな雑誌に書き散らしていた種々雑多な文章は、偶然目にするたびに異様な吸引力を発揮して私を捕らえた。彼はいつも、清新かつ邪悪な視線で世界を見回しながら、当時凄(すさ)まじい勢いで数量を増しつつあった音楽や書物から対象を選び出しては、直観的でありながら強靱(きょうじん)な分析力を発揮して、独創的なレトリックを駆使した華麗な文体で誌面の隅を秘(ひそ)かに彩っていた。殊更に熱心に彼の文章を渉猟していたわけではないが、私はライター山崎春美のファンだった。もちろんその前に音楽家としての彼に魅せられていたのだけれど。
 本書は山崎の初の著作集。書名は彼がその昔、主戦場としていた自販機本「HEAVEN」に由来する。76年のデビュー原稿から2013年の書き下ろしまで、ぎっしりとテキストが詰め込まれている。序文にはこんな文章がある。「コトバは飛来し付着する。または旋回しウィルスみたいに伝染する。伝播(でんぱ)し憑依(ひょうい)し唾(つば)も飛ばすし口角も泡立つ」「やたら無駄遣いされたあげく、打っちゃられちゃったりもしよう」。この言語=ウイルス説はウィリアム・バロウズに由来するが、山崎が登場した時代の条件でもあった。それは、言語が情報と同義になって高速かつ膨大に流通するようになった時代ということである。
 言語を信じることなく、むしろ憎悪さえしながらも、それと戯れ、玩(もてあそ)び、慈しみさえすること。30年以上に及ぶ執筆時期の隔たりは全くと言っていいほど感じられない。早熟な少年として現れた山崎春美は、今も若々しい。
    ◇
 河出書房新社・2520円/やまざき・はるみ 58年生まれ。ミュージシャン、ライター、編集者。

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