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いまを生きるための政治学 [著]山口二郎

[評者]原真人(本社編集委員)

[掲載]2013年10月27日

[ジャンル]政治

表紙画像

■失敗ふまえ“新・政権交代論”

 著者は「生活が第一」のスローガンを提言し、4年前の政権交代に一役買った民主党のブレーンだ。理想の政治の実現を夢みた著者にとって、民主党の挫折は痛恨事だったろう。市民に政治へのあきらめ気分を広げてしまった罪は重い、と政権を総括する。
 ただ本書のテーマは失敗政権へのうらみ節でも、知恵袋としてのざんげでもない。蓄えた知識と思想をフル動員し失敗体験もふまえ、あせた政権交代論を刷新し、理想の政治論を再生することだ。
 政治状況の変化もそれを必要としている。第一に20年前に始まった政権交代可能な政党政治への歩みが振り出しに戻ってしまったことがある。自民党以外の勢力を何でもいいからかき集め、対抗勢力を作る路線はついに頓挫した。
 第二は民主党政権の失敗の反動で、政権安定と景気の回復だけを望む短絡的な民意が広がっていることだ。これが政治の矛盾を深めているという。その民意に乗る安倍政権はグローバリズムとナショナリズムという異質な土台に足場を置き、実は不安定だ。
 著者の主張は、理念や理想で結集する政党政治の基本に立ち返れ、といたってシンプルだ。ただその先が難しい。理想主義に走りすぎるな、というのだ。ベストを追うあまり微温的なものを排除していけば、往々にして最悪の結果を招き寄せてしまう。
 「2030年代に原発ゼロ」を打ち出したのに足元の再稼働を認めた野田政権。これを脱原発勢力が見放したのがいい例だ。その結果30年代ゼロ目標は安倍政権によって葬られてしまう。なかなか理想に近づけないまどろっこしさに耐えないと、本当に求めるものを失うこともある。
 目の前の政治を見放すのはたやすい。批判しつつも見守ることはずっと難しい。それでも私たちは、私たち自身のためにその努力を必要としている。そこに気づかせてくれる市民のための手引き書だ。
    ◇
 岩波現代全書・2205円/やまぐち・じろう 58年生まれ。北大教授(行政学・政治学)。『戦後政治の崩壊』など。

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