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ヒッグス―宇宙の最果ての粒子 [著]ショーン・キャロル

[評者]川端裕人(作家)

[掲載]2013年11月03日

[ジャンル]科学・生物

表紙画像

■ノーベル賞もたらした大発見

 今年のノーベル物理学賞は、ヒッグス粒子なるものの存在を半世紀前に予想した2人の理論物理学者が受賞した。昨年、スイス・ジュネーブ郊外の欧州合同原子核研究機関(CERN)の実験で、同粒子が実際に「発見」されたことが直接の理由だ。米国の理論物理学者の手になる本書は、素粒子理論の構築と発見をつぶさに追った科学読み物。
 では、ヒッグス粒子とは何か。これが一言では語りにくい。粒子と対になったヒッグス場のおかげで、この世界に「質量」が生まれたとか、必ずしも正確ではない(間違いともいえない)解説が流布していて、本書はそのあたりを丁寧に解きほぐす。中学の理科第1分野が大嫌いだったという人にはあえてお奨(すす)めしないが、原子模型を興味深く眺めたことがあるような人なら、自分自身の読解力に応じた理解が得られるはずだ(多少差が出るのは仕方ない)。
 著者はこの発見を「終わりであり始まり」と述べる。ヒッグス粒子は「標準模型」という理論で予想される素粒子の中で唯一未発見だった。つまりパズルの最後のピースがぴたっとはまり、標準模型はある意味、完成した。その一方、標準模型だけでは説明できないことも多くあり、ヒッグス粒子の挙動を知ることが、新たな謎解きの第一歩となる。
 本書は科学解説に留(とど)まらず、素粒子物理のように巨大化した科学の社会的な意義をも問う。ヒッグス粒子を発見した装置は、数千億円を費やして建設され、膨大な電力を使い、数千人もの研究者がかかわる。宇宙の成り立ちを解き明かすためとはいえ、それだけのコストをかける意義があるのか。米国人の著者は90年代、テキサス州で建設途中に中止されたSSC(超伝導超大型加速器)の苦い記憶を持つ。この時、米国には「ノー」と言う声が多かったわけだ。ヒッグス粒子発見がもたらすものを垣間見た後で、考えるのにふさわしい課題だ。
    ◇
 谷本真幸訳、講談社・2940円/Sean Carroll 米カリフォルニア工科大学の理論物理学者(宇宙論)。

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