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連続シンポジウム 日本の立ち位置を考える [編]明石康

[評者]渡辺靖(慶応大学教授・文化人類学)

[掲載]2013年11月03日

[ジャンル]社会 国際

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■日米アジア識者の良質な議論

 戦後日本の民間国際交流の草分け・国際文化会館(東京)で行われた日本・米国・アジアの有識者19人による連続シンポジウムの抄録。
 例えば、日米中の関係一つ取っても多様な視点が提示されている。
 近代史をひもときながら「日本とアメリカとの関係は中国問題によって規定される」と説く加藤陽子。その中国は「日米両国を同時に相手にして戦うことはできない」として、日中関係が悪化しているときは米中関係の安定化を図ると指摘する王緝思。「アメリカも日本も日米同盟にばかり集中しない方がいい」と意外な提言をするエズラ・ヴォーゲル……。
 日中関係については、五百旗頭真とヴォーゲルが、過去の戦争への反省を土台にしながらも、戦後日本が中国に行った償いや善行については堂々と筋を通すべきだと見解を一にしている。
 加えて、トミー・コーは自国(シンガポール)がマレーシアとの領土問題解決を国際司法裁判所に付託した例を引きながら、国際法遵守(じゅんしゅ)の姿勢を前面に打ち出すことが日本の利益になると助言する。
 パワーの移行と拡散が著しい今日の国際関係にあっては、現状規定や課題設定、規範形成の能力——例えば、「自衛」や「中立」などの「概念や用語の定義をめぐる闘争」(加藤)——が国家の命運や存在感を左右する。問われるのは自国の政策・理念・制度の正当性、信頼性、そして魅力だ。
 「仮想敵を求めてみたい気持ちに駆られることへの強い自戒の念」(明石康)に裏打ちされた本書は、そのための鋭い指摘やユニークな処方箋(しょほうせん)に富んでいる。
 リベラル派と保守派の有識者双方が、左右の極論に走ることなく、良質の議論を展開している点も貴重だ。似た者同士だけで「対話」しがちな日本の論壇の閉塞(へいそく)状況とは異なる開かれた言説空間がここにはある。
    ◇
 岩波書店・2205円/あかし・やすし 31年生まれ。国連事務総長特別代表などを経て、国際文化会館理事長。

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