書評・最新書評

戦後歴程―平和憲法を持つ国の経済人として [著]品川正治

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2013年11月10日

[ジャンル]歴史 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■体制内でも貫いた「9条死守」

 著者は陸軍歩兵2等兵として、中国で終戦を迎えた。抑留の後、帰国の復員船で、日本国憲法の草案を伝えるよれよれになった新聞を見た。
 「(憲法9条に)はっきりと、二度と戦争はしない、と書いてある。武力を持たないと宣言している。私たちはみな、泣いた」
 亡き戦友たちへのなによりの手向け、そして「傷つけたアジアの人々への贖罪(しょくざい)」がこれによって始まったという。
 本書は著者のその原点を辿(たど)りつつ、戦時下、戦後の生き方を丁寧に綴(つづ)った自伝風の読み物、と同時に「9条死守の覚悟」を示すことで、次代の者に戦争の記憶を忘れるなと訴える。著者は旧制三高時代に友人の非戦言動の責を負う形で学園を離れ、自ら陸軍に志願する。そして中国での戦場体験。筋の通った生き方は、戦後は損害保険会社にあっても組合活動や管理職、社長に就任しても貫かれる。その歩みには、常に「平和憲法」が意識され、日本を真の独立国たらしめよとの言を発し続ける。どれほどの管理やしめつけがあっても恐れない。
 単にそのような発言だけなら一個人の記録に堕してしまうのだが、著者は、初志に徹底してこだわり、経営者のひとりとして体制内部にあっても強い使命感を持ち続けた。損保会社の役割はセーフティーネットに徹するべきだとの経営姿勢や、妻子に対する愛情の深さで満たす家庭生活も、こうした使命感によって培われていた。
 新たな発見もある。「9条死守」は、人間錬磨に通じているし、真の常識人になることだと教えているのだ。歴史や政治のバランスのとり方も示唆されている。「沖縄の人たちは日本で一番幸せにならなければならない」という先々代社長の右近保太郎の言を自らの信条としている。沖縄の基地が撤廃されて、真の「憲法9条を持つ日本」になるとの指摘こそ、この国への遺言と解すべきであろう。
    ◇
 岩波書店・1890円/しながわ・まさじ 1924〜2013年。経済同友会専務理事などを歴任。『反戦への道』

関連記事

ページトップへ戻る