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民謡の発見と〈ドイツ〉の変貌―十八世紀 [著]吉田寛

[評者]荒俣宏(作家)

[掲載]2013年11月10日

[ジャンル]歴史 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■「野生の歌」国民精神の基盤に

 一見すると難解な「ドイツ音楽論」風だが、じつはその改革が音楽の専門筋からでなく哲学・文学からの幅広い運動に負っていた事情を解き明かす刺激的な本だ。
 近代的な国家・国民意識が最後まで確立せず、音楽もイタリアやフランスの折衷模倣で急場を凌(しの)いできた「遅れた国家」ドイツは、専門家が蔑視していた粗野な農民の歌謡を、その「遅れ」を逆手にとって、新たなドイツ国民精神の基盤に据えようとした。
 ドイツ民謡の価値を発見した哲学者ヘルダーが、音楽について素人であった点も、先進国コンプレックスを覆す力となった。
 この発想は、音楽を芸術的な洗練ではなく、粗野で大衆的な「野生の歌」を復活させる方向へ発展した。同様に「新しい国家」建設中だったアメリカや日本は、ドイツの民謡復活やロマン主義思潮に影響を受けたわけで、柳田國男が日本の民俗に目を向けた意義などもこの視点から再検討するとおもしろそうだ。
    ◇
 青弓社・2730円

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