ビルマ・ハイウェイ―中国とインドをつなぐ十字路 [著]タンミンウー

[評者]角幡唯介(ノンフィクション作家・探検家)  [掲載]2013年11月10日   [ジャンル]歴史 

表紙画像 著者:タンミンウー、秋元 由紀  出版社:白水社

■辺境の変化、歴史掘り起こし報告

 中国とインドの国境近くの峡谷を探検したことがある。最初は98年。粗末なあばら家が並び、人々は火縄銃で猟をしていた。ところが5年後になると高速道路みたいな立派な道路が延び、その7年後には人々は携帯電話で山一つ向こうの友達と気軽に連絡を取り合っていた。それを見て私は驚愕(きょうがく)したものだ。この間まで火縄銃だったのにと。
 中国とインド、ビルマ(ミャンマー)の国境付近は世界の最辺境であり続けてきた。ヒマラヤの高峰や深い峡谷、不快な密林や疫病が障害となり中印両国の支配が及んでこなかったのだ。そのためこの地域は山ごとに異なる少数民族が暮らす、両大国の緩衝地帯の役割を果たしてきた。
 それがついに変わろうとしている。本書は経済力を手にした中印両国がいかにこの辺境に進出しているのかを、歴史の襞(ひだ)を掘り起こしながら明らかにしていく。とりわけ中国の影響力の増大は目覚ましく、雲南省からビルマを突っ切ってベンガル湾まで鉄道とパイプラインを通す計画が進行中だ。しかも中国にとってインド洋への進出は漢の武帝以来の計画だというから時間的スケールが半端ではない。本書の視点はそうした長大な歴史に支えられている。
 それにしても、ついこの前まで混沌(こんとん)としていたこの辺境地帯でも街路がきれいに整備され、日本の郊外と同じようなどこにでもあるショッピングモールが建設されつつあることを思うと、個人的にはやるせない。臆面もなく各民族固有の生活様式や文化を押しつぶすように広まっていく中国の旺盛な経済活動に著者も憂慮の念をにじませている。
 だがこれは中国一国の問題ではない。ヒト、モノ、カネの動きがついに最辺境に波及した、現代の消費主義が行き着いた果ての話でもあるのだ。その意味でビルマ辺境にとどまらず、今世界で起きていることの最先端の報告としてとても興味深い一冊だ。
    ◇
 秋元由紀訳、白水社・3150円/Thant Myint−U 66年生まれ。ケンブリッジ大で博士号(歴史)取得。歴史家。

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