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哲学者が走る [著]マーク・ローランズ

[評者]角幡唯介(ノンフィクション作家・探検家)

[掲載]2013年11月17日

[ジャンル]人文

表紙画像

■生きることの意味どこに

 印象的だったのは、トルストイが『懺悔(ざんげ)』で書いたという心の動揺だ。財産があるからといってどうした? 有名になったからといってどうなる? 子孫の幸福を願うのはなぜだ? この三つの質問に答えられない限り生きていくことはできないはずだ。そのことに文豪は動揺した。
 この動揺は、生きることの究極の意味はどこにあるのかという本書のテーマに直結する。何らかの見返りを求めて行動を起こすのは実は虚(むな)しい。勉強するのは大学に入るため。大学に入るのは就職するため。就職するのは安定するため……と考えていくと、最後は生きるためという出発地点に戻ってしまうのだ。
 人生には何かのためではない内在的な意味がある。それと同様、走ることにもそれ自体に意味があり、ランニングを通じて著者は人生の秘密に迫る。前著『哲学者とオオカミ』と比べると、こじつけに感じられるところもあるが、哲学上の難問を読みやすい文章で記すところはさすがだ。
    ◇
 今泉みね子訳、白水社・2310円


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