北原亞以子「たからもの」書評 木戸番小屋の人間模様
評者: 朝日新聞読書面
/ 朝⽇新聞掲載:2013年11月24日
たからもの (深川澪通り木戸番小屋)
著者:北原 亞以子
出版社:講談社
ジャンル:小説・文学
ISBN: 9784062186292
発売⽇:
サイズ: 20cm/258p
たからもの 深川澪通り木戸番小屋 [著]北原亞以子
江戸は深川中島町の澪通り、今の江東区永代2丁目に、小さな木戸番小屋がある。暮らすのは人生の辛酸をなめてきた笑兵衛とお捨の夫婦。2人は、小屋を訪ねてくる人たちの悲しみや苦しみにそっと寄りそいながら生きている。1984年から書きつがれてきたこの連作も、作者が今春亡くなり、幕を閉じてしまった。
この第6巻には短編8話を収める。これといった事件が起こるわけではなく、市井の人間模様が温かく細やかな筆で生き生きと描かれる。最後の作品「暗鬼」では、実直な古傘買いの男が財布を盗んだと疑われる。男の人柄はわかっているのに、信じきることができない己の弱さを見つめるお捨のたたずまいがいい。
◇
講談社・1680円