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カミキリ学のすすめ [編著]新里達也

[評者]荒俣宏(作家)

[掲載]2013年11月24日

[ジャンル]科学・生物

表紙画像

■野性味たっぷりの「虫屋」讃歌

 筋金入りのカミキリムシ好きが集まって書き上げた「カミキリ屋」讃歌(さんか)である。
 昆虫採集といえば生物趣味界でも専業化がたいへんに進んだ濃密な分野であり、ある古書店主によれば古い博物学書も昆虫関係だけは確実に売れるという。実際、本書を読んで執筆者個々が語るカミキリ人生の破天荒ぶりに恐れをなした。じつは評者も魚類の観察と採集に半世紀を費やしており、先日も台風30号が直撃するパラオでワニの出没するマングローブ帯を潜ってきたばかりだが、とてもそんなものではない。
 保育園児にもかかわらず独りで裏山に登り虫捕りに熱を上げたため3か月もたずに園を中退させられたとか、謎めいた珍品の正体を突き止めるためロンドン自然史博物館にまで調査に出かけたなどの「伝説」は当たり前で、カミキリ好きの特性を買われてJICA(国際協力機構)の熱帯研究事業に参加した一著者の実体験などは、正直、血の気が引いてしまう。カリマンタンのある演習林でカミキリの採集調査を行うはずが、乾燥した演習林が火災に見舞われ焼け野原に一変してしまう。これで逃げ出てきたのがとんでもない数の熱帯ヘビだった。しかし根が生物好きの著者はこれ幸いとヘビの標本作りに励み、飼育すら始めるのだが、あまりに多くなり過ぎついに食用にする。電流が流れるニクロム線の上で感電しながらヘビを焼き、コブラ酒を造った瓶の口に蛇の頭を取り付け、コブラの舌先から酒を注いで飲む。その後にジャカルタで暴動が起き邦人に帰国勧告が出て、一時退避。それでも、立派な目録を製作できるほどのカミキリ採集をやり遂げるあたり、じつにワイルドというほかない。
 むろん本書の本筋はカミキリの詳細な分類や生態の知見にあるが、カラー図版などがないため、評者には十分に魅力を伝達できないことが口惜しい。
    ◇
 海游舎・3570円/にいさと・たつや 57年生まれ。日本甲虫学会会長。共著に『日本産カミキリムシ検索図説』。

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