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兎とかたちの日本文化 [著]今橋理子

[評者]三浦しをん(作家)

[掲載]2013年11月24日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■かわいい!の奥に深い事実

 お皿、文房具、お菓子など、うさぎ柄やうさぎをかたどった品物はたくさんある。うさぎは、かわいい雑貨のデザインとしてのみならず、飾りとして兜(かぶと)に乗っかっていたり、日本画に描かれたりと、ほうぼうに登場する。
 なぜ日本では、これほどうさぎが愛されているのか。人々は「うさぎ」をどう認識し、「うさぎ」はなにを象徴してきたのか。「うさぎ=かわいい!」と、つい条件反射で思ってしまいがちだが、実は日本人とうさぎのつきあいは、もっと深く豊かなものだった。その事実を、うさぎという「かたち」を通し、多くの図版を使って多面的に掘り下げた本だ。
 特におもしろいのが、江戸時代中期の画家、葛蛇玉(かつじゃぎょく)の「雪夜松兎梅鴉図屏風(せつやしょうとばいあずびょうぶ)」を解釈しなおす項だ。この屏風には、うさぎとカラスが描かれているのだが、従来はうさぎが右に、カラスが左になる形で屏風を置き、展示してきた。しかし著者は、屏風の置きかたが逆なのではないかと指摘する。
 指摘の根拠は、非常に明快で理にかなったものだと私には思われる。詳しくはぜひ本書をお読みいただきたいが、ヒントは「古来、中国をはじめとする東アジア世界では、うさぎは月を、カラスは太陽を象徴している」事実だ。うさぎという「かたち」に着目するだけで、絵画への理解がぐんと広がり、深まる。
 本書のおかげで、うさぎが登場する日本画や工芸品を、これからは新たな目で眺めることができそうだ。うさぎ好きとしては感に堪えない。
 ちなみに本書の著者は、「兎好き(ウサギマニア)」ではないそうだ。こんなにうさぎグッズを集め、これほど真剣にうさぎの「かたち」と向きあっているのに!? ほんとはうさぎ好きのくせに(勝手に断定)、あくまでクールさを装いつつ、情熱的にうさぎの秘密に迫る著者の研究者としての姿勢に、好感と信頼を覚えた。
    ◇
 東京大学出版会・2940円/いまはし・りこ 64年生まれ。学習院女子大学教授。『江戸の動物画』など。

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