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「アルプ」の時代 [著]山口耀久

[評者]角幡唯介(ノンフィクション作家・探検家)

[掲載]2013年11月24日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■心の対話表現した山岳文芸誌

 串田孫一、尾崎喜八、深田久弥、畦地梅太郎、辻まこと……。かつて名だたる文人、詩人、岳人が寄稿した「アルプ」という山岳文芸誌があった。1983年の廃刊時には一般紙が大きく扱うほどファンが多かったという。本書は創刊時からその編集に携わった著者による回顧録である。
 登山のスタイルには流行(はや)り廃りがあり、評価の基準も時代の変化を受ける。しかしどんな登山にも一貫しているのが人間と山との心の対話だ。そこをうまく表現できた時に登山は文学になりうるわけで、「アルプ」の寄稿者たちが謳(うた)いあげてきたのは、その山との心の対話だったという。
 回顧録と書いたが、そう呼ぶには憚(はばか)られるほど読ませる本だ。著者の味わい深い文章からは「アルプ」ののどかな誌面作りと、60〜70年代の余裕のあった時代の雰囲気が横溢(おういつ)している。まさにこの本自体に「アルプ」の特別復刊号!といった趣があり、箱入りの趣味のいい装丁も含めて風格を感じさせる一冊である。
    ◇
 山と渓谷社・3465円

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