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都会で聖者になるのはたいへんだ―ブルース・スプリングスティーンインタビュー集1973-2012 [編]ジェフ・バーガー

[評者]赤坂真理(作家)

[掲載]2013年12月01日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能

表紙画像

■はぐれ者のスター、肉声が映す米国

 16歳の冬、学校へ行く道で車のラジオから流れるブルース・スプリングスティーンの曲「ハングリー・ハート」が支えだった。車で出かけ、違うふうに曲がり、妻子を置き去りにした男の歌だ。それが奇妙にあっけらかんと明るい。
 私は一人でアメリカの北東部の小さな町にいて、学校でもホストファミリー宅でも、最高によるべなかった。その頃の私には、アメリカ白人にも労働者階級がいて働くだけの日々を送っているなんてことへの想像力はない。でも私が反応したのはそんな世界の、さらに「はぐれ者」の音だった。
 本書は、アメリカン・ドリームの体現者とも言えるスター、ブルース・スプリングスティーンの40年間の肉声を集めたものである。こういう本は初めてだという。
 極貧のデビュー前後、創作の内幕、アメリカの夢と現実、父との葛藤、仲間や家族、ゲイ・レズビアン誌のインタビュー(出色である!)から大統領選応援演説まで、幅広い。好きな一言を挙げるなら断然「自分の子供が同性愛者だと告白してきたらなんと言うか?」の質問に対する「そうすることで幸せになれるなら、必ず幸せになれる道を探せ」だ。
 読んで気づくのは、彼はアメリカと音楽のすべての混成物(アマルガム)であるということだ。それをたった一言で表現するなら「ロックンロール」。ロックンロールの誕生は、アメリカ史においてアメリカ独立と同じくらいの事件であったと私は思う。それが、建国者たちが奴隷にした黒人の音楽を母胎としたところが、歴史の皮肉であり、希望だ。
 だから彼のバンド「Eストリートバンド」は、黒人サックスプレーヤー、ビッグマンことクラレンス・クレモンズを自然と象徴としたのだろう。工場と矛盾の吹き溜(だ)まりのようなニュージャージー。川の対岸、摩天楼のニューヨークとの格差。そこで奴隷の末裔(まつえい)と白人労働者階級の落ちこぼれたちが出会い、運命は本格的に動いた。
 エンターテインメントを政治の道具とすべきじゃないと語り、かつてそうされかかった傷も持つ彼だが、2004年に打倒ブッシュを胸にケリー候補、08年にはオバマ候補の大統領選の応援に立っている。
 オバマへの応援には、全人格的な感応が感じられる。異文化を存在として併せ呑(の)むオバマに、彼は、未来であると同時に本来のアメリカを見たのではないか。もっと言えば、大統領史上のロックンロール誕生を。
 とともに、アメリカ政治というものの本質が、世界へと発信される大掛かりな「ショー」であることも、この類いまれなショーマンは教えてくれる。
    ◇
 安達眞弓訳、スペースシャワーブックス・2625円/Jeff Burger ライター・編集者(米国)。ポピュラー・ミュージック界を見つめるジャーナリストとして40年以上のキャリア。ロサンゼルス・タイムズ紙など多くの新聞・雑誌に寄稿。

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