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どっこい大田の工匠たち―町工場の最前線 [著]小関智弘

[評者]鷲田清一(大谷大学教授・哲学)

[掲載]2013年12月01日

[ジャンル]経済

表紙画像

■技能が磨いた底知れぬ謙虚さ

 五十年の職人生活を送った旋盤工であり、作家でもある小関智弘さんは、職工の世界を内と外から同時に見られる人だ。だから従業員数名といった小さな町工場が集積する町、東京・大田区での職工さんたちの仕事と人生を聴き語るにあたっても、そのまなざしはとても厚い。
 人工心臓、新幹線や原子炉の制御装置に使う部品、はては切り子細工やスティールパン(ドラム缶の楽器)の製造まで、先端の技術、継承された技術がどんなレベルのものなのか、わかりやすく説明してくれるし、下請けの下請けということで受ける理不尽な仕打ちや、裸一貫でここへと流れついたがゆえの苦労、そしてそれゆえに編むほかなかった(下請け、孫請けのような上下関係ではない)“横請け”という相互扶助のネットワークなども、技の話から透かし見えて、何もかも呑(の)み込んだような文章には、深い慈愛のようなものさえ感じた。
 「空洞化ってのは真ん中のヤワなところがすっぽり抜けて空洞になることだろう。それなら俺たちは、まわりの枠になって残ろうよって」……
 確かなものをつくる、他所(よそ)ではできない仕事をやる、頼まれたら赤字でもやるという気概が、踏み倒し、ピンハネ、不渡り、やっかみ口といった理不尽を抑え込む。景気に踊らされ吹けば飛ぶような存在だからこそ、どんなことがあっても納期を守り、加工賃の安さにも工夫で耐える。陰で黙って手を差しのべてくれたひとたちへの恩義も忘れない。それが石頭がつくほど頑固なのに、底知れず謙虚な人柄を生んできた。
 中学校に「技術・家庭」という科目がある。受験とは関係のない脇道の授業と思われがちだが、これからは、倫理というのはこういうところでこそ学ぶものだとおもう。
 日本人は普通のひとが偉い、と言ったひとがいる。そのことを確認させてもらい、ほっと一息つけた一冊である。
    ◇
 現代書館・2100円/こせき・ともひろ 33年生まれ。『大森界隈職人往来』で日本ノンフィクション賞。

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