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「3・11」と歴史学 [編]研究会「戦後派第一世代の歴史研究者は21世紀に何をなすべきか」

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2013年12月08日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■命の視点で歴史学総体を見直す

 本書の「はしがき」に〈歴史学は、地球、宇宙という意味での「自然」と、「類」としての「人類」の歩みとの関係の問題に、正面から立ち向かう必要がある〉と書かれている。つまり自然と人類との共生の紐帯(ちゅうたい)をいかに見つめていくか、これまではそれが欠けていたとの自省である。
 戦後派第一世代ともいうべき歴史学者16人が集まってシリーズ「21世紀歴史学の創造」(7巻)の刊行を始めたのが2012年5月、そして本巻のほかに別巻2冊が編まれた。本書はこの別巻2にあたるのだが、一般にも注目されるのは「3・11」を機に歴史学総体の見直しを試みた点にある。冒頭の論文で、小谷汪之(ひろゆき)は、戦後歴史学は科学的歴史学と近代主義的歴史学の「矛盾を含んだ混合物」で、そこに盲点があったと分析する。皇国史観克服のためのマルクス主義への過剰な傾斜を認めたということだろう。
 小谷は原子核物理学者・武谷三男を例に論じるが、宮地正人はそれに反論している。2人の論点をどう読みこなすかが、実はこの書を理解する鍵だともわかってくる。
 一方で3・11が私たちにつきつけたのは「命」に関わる視点だとの指摘(伊藤定良、南塚信吾、清水透など)があり、南塚は地球と人類を念頭に置いた「大きなパラダイムの議論」の必要性や自然諸科学との連携、ヨーロッパ的史観などの再検討を訴えている。生殖医療、代理母出産、先端医療に歴史学はどう関わるかの論点も目新しい。
 本書は、3・11時の原発事故を全体図として見つめ、同時に各国の原子力政策がどのような推移を辿(たど)ったかに膨大な頁(ページ)が割かれている。それぞれの国の原子力政策の時代区分などに歴史学の目が感じられもする。政官産学の原子力関係諸集団が説く安全神話に歴史学がどうメスを入れるのか、興味の持たれる視点も提示される。巻末の核と原発の年譜が貴重である。
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 有志舎・2520円/略称=戦後派研究会。メンバーは本文に登場したほかに木畑洋一、古田元夫、油井大三郎氏ら。

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