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福島第一原発収束作業日記―3・11からの700日間 [著] ハッピー

[評者]原真人(本社編集委員)

[掲載]2013年12月15日

[ジャンル]政治 社会

表紙画像

■混乱する現場の実態、赤裸々に

 東電福島第一原発で働くベテランの下請け作業員である著者は、事故直後からツイッターでつぶやき続ける。いつしか原発について“本当のこと”を知りたい人々に支持され、フォロワーは9万人近くまでふくらんだ。本書はその700日間のつぶやき集だ。
 “歴史”は往々にして権力によって作られる。政府や国会の事故調査委員会の分厚い報告書はあるが、それらが政権の解釈に影響されるのは避けられない。自由で私的な立場の本書には、だから別の意味の歴史的資料価値がある。
 もちろん一作業員の報告にすぎないから、説明や解説に事実誤認がまじっている可能性もある。それでも最前線の状況をここまで赤裸々に生々しく語れるのは、危険と背中合わせの作業現場に生身で携わっているからこそなのだ。
 迷走する首相官邸や東電本社に翻弄(ほんろう)され、混乱する現場の様子がよくわかる。震災直後の菅直人首相の原発訪問は明らかに現場の作業をじゃましていたし、政府が工程表や収束宣言を発表するたびに、現場の人々は実態とのズレに驚き、不安に思っていた。
 下請けの立場は弱い。予算削減で給料が減らされ、被曝(ひばく)線量が規定に達すると簡単に切られる。その後の補償もない。そこで著者は心配する。もし他の原発が再稼働すればもはや福島第一に作業員は集まらないのではないか、と。
 事故収束は本当に民間企業に担っていけるのかと疑問に思う著者は、福島第一を東電から切り離し、官民あげての新組織でコストを度外視して対応すべきだと考える。そして、そもそも原発事故が「人間がコントロール出来る代物じゃない」と思い至るのだ。
 小泉純一郎元首相は権力者の視点から「原発ゼロ」が可能だと唱え、それが机上の空論だと考えていた人々に衝撃を与えた。本書の現場目線のアプローチも、原発ゼロ社会の必然性を、説得力をもって読者に届けることだろう。
     ◇
 河出書房新社・1680円/ハッピー 福島第一原発で大震災に遭い、収束作業にあたるキャリア約20年の原発作業員。

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