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ハンナ・アレント〈世界への愛〉 その思想と生涯 [著]中山元

[評者]水無田気流(詩人・社会学者)

[掲載]2013年12月15日

[ジャンル]人文

表紙画像

■世界は他者とともに作るもの

 先ごろマルガレーテ・フォン・トロッタ監督による映画も公開され、再評価の進むハンナ・アレント。政治哲学者として、またユダヤ人として、全体主義との数奇な格闘を余儀なくされたアレントの思想が、丹念に詳解されていく。
 アレントの主著『人間の条件』のタイトルは、当初『世界への愛(アモールムンディ)』とする予定だったという。この逸話を軸に、「世界」と「愛」についての思想が展開する。アレントの世界概念は、歴史性、持続性、他者性の三つの特徴をもつが、それらは「天としての世界の歴史」「地としての大地の持続」「装う者としての他者」にそれぞれ対応させられないか、と筆者は論じる。それらはちょうど、因縁の師・ハイデガーが世界の四元と呼んだもの——天、地、死すべきもの、永遠なるもの——と鮮やかに対照する。ハイデガーにおける他者との関係性を象徴する概念は「頽落(たいらく)」であり、大衆社会に埋没するひとの様態である。
 一方、アレントは他者へと向かう能動的なかかわりを基点として世界を立ち上げる。愛の内包する矛盾とは、世界や他者とのかかわりにおいて宿命的に表れる問題でもある。西欧思想史におけるこの問題を指摘しつつ、それでもなお、「世界は他者とともに作るもの」だという姿勢。それは、ハイデガーがアレントと袂(たもと)を分かって後、何度か言及しつつも確証し得なかった、単独性の難問を解く鍵のようにも見える。
 アレントは言う。単独性は孤独、孤立、孤絶の三様を持つ。孤独とは孤立ではなく、自分自身とともにあるということ。思考のために孤独は必要だ。一方、孤立とは大衆の中にあって孤独の契機さえ奪われていること。さらに仕事をしているとき、人間は孤絶の状態にあり、自分自身と向かい合うことすらできない、と。透徹した孤独と、世界への愛。両者が引き合う場を開く、大著である。
     ◇
 新曜社・5985円/なかやま・げん 49年生まれ。哲学者・翻訳家。著書『思考のトポス』『』など。

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