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売女の人殺し ボラーニョ・コレクション [著]ロベルト・ボラーニョ

[評者]佐々木敦(批評家・早稲田大学教授)

[掲載]2013年12月15日

[ジャンル]文芸 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■この世の夕暮れ、描き出す言葉

 ロベルト・ボラーニョの小説を読んでいると、いつも強く感じさせられるのは、世界が終わっていっている、という印象である。終わりに向かっている、のではなくて、今まさに終わりつつある、という、進行形の感覚。しかし、それは終末論的などと呼ばれるような大仰なものとは違う。もっと仄(ほの)かで、切なくて、甘やかでさえあるような、延々と続く夕暮れのような、それをずっと眺めているような、不思議な感覚。
 チリ出身の作家ボラーニョは、2003年、50歳で没した。その早過ぎる死の少し前から、著作が相次いで外国語に翻訳され、彼は世界から「発見」されつつあった。遺作として出版された『2666』は、長編小説5冊分という分厚さにもかかわらず、各国で読まれ、高い評価を受けている。日本でも、ささやかなベストセラーになったことは記憶に新しい。
 「ボラーニョ・コレクション」の第1弾は、生前最後に出された短編集。冒頭の「目玉のシルバ」で、作家自身と同じくチリからメキシコにわたり、その後ヨーロッパへと向かった語り手の「僕」は、旅先のベルリンで、仲間内で「目玉」と呼ばれていた同性愛者のカメラマンと偶然再会し、彼の半生の話を聞く。それはインドから始まる、悲哀と絶望に彩られた物語だ。続く「ゴメス・パラシオ」、これはメキシコ北部のさびれた町の名前で、「僕」はそこの創作教室で教えることになり、「ぎょろ目で小太りで中年の女所長」と微(かす)かな触れ合いを演じる。そして「この世で最後の夕暮れ」と題された短編は、1975年、「BとBの父」がアカプルコに旅行した時の回想である。
 どの作品にも、他の誰にも似ていない魅力が滲(にじ)み出ている。世界の終わりを、いつまでも終わりゆく風景を、平明で簡潔な、だがひどく感情を揺さぶる言葉が、鮮やかに描き出してゆく。
     ◇
 松本健二訳、白水社・2520円/Roberto Bola●(●はnに〜〈チルダ〉付き)o 53年生まれ。作家。著書に『通話』『野生の探偵たち』など。

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