書評・最新書評

ミツバチの会議―なぜ常に最良の意思決定ができるのか [著] トーマス・D・シーリー

[評者]田中優子(法政大学教授・近世比較文化)

[掲載]2013年12月15日

[ジャンル]科学・生物

表紙画像

■多様な解答を探り、優れた結論へ

 コーネル大学で学科長をしている著者は教授会を極めて民主的に運営している。それはミツバチから学んだことなのだ。ではいったいどんな風にミツバチは社会を運営しているのだろう。
 本書は、働きバチのうち約三%を占める探索バチの行動分析の本だ。探索バチとは次の巣作りの場所を探す役目のハチのことで、複数が飛び回り、ふさわしい広さと天敵や風雨から集団を守る最適な場所を探す。それぞれは、ここぞと思った場所を発見すると、巣に帰って尻振りダンスによるマニフェスト戦を展開し、各提案に支援者を取り込む。場所が決まると他のハチは動かなくなり、そこへ全員で移動する。
 かなり専門的な研究書だが、民主主義のプロセスとは何であるかを考える知恵がつまっている。たとえば、討議の初めにリーダーが行うべきことは「集団の繁栄にみんなが関係している」と気付かせ、「問題の範囲、解決のために使える資源、手順の規則」など中立的な情報を与えることだ。その後「リーダーが集団の考えに及ぼす影響をできるだけ小さくする」ことで「自由に質問ができる雰囲気を作り出し」「疑問や異議の表明を奨励」することこそ重要なのだ、と。なぜなら「集団が選択肢を探す能力は、一個人の力に勝る」からである。
 ここで集団とは同じ方向を向く人々のことではなく、選択肢を可能な限り拡(ひろ)げることのできる、アイデア集団のことを意味する。その選択肢を必ず表現することで情報を共有し、もっとも優れた結論を出すことができる。著者が挙げている正反対の例は、ブッシュ大統領による二〇〇三年のイラク侵攻決定である。リーダーを喜ばせようと、周囲が早すぎる合意をした事例だという。
 ミツバチから学ばねばならないほど、今や人間は、多様な解答を探ることをしなくなっている。
     ◇
 片岡夏実訳、築地書館・2940円/Thomas D. Seeley 52年生まれ。米国コーネル大学教授(生物学)。

関連記事

ページトップへ戻る