書評・最新書評

紅白歌合戦と日本人 [著]太田省一

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2013年12月22日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能

表紙画像

■安住の地求める大晦日の儀式

 本書の初めに、「私たち日本人が六〇年以上にわたって『紅白』を見続けてきたのは、そこに〈安住の地(ホーム)〉を見出(みいだ)してきたから」との一節がある。この〈安住の地〉が本書の中でなんども用いられる。末尾にもしめくくりの語として使われている。
 この語には多様な意味が仮託されている。共同体、ナショナリズム、あるいは歴史という語をあてはめてもいい。1951年に始まった紅白はそれ以前に伏線があったこと(占領期のGHQ=連合国軍総司令部=の思惑にどう抗するか)などが語られ、紅白誕生の秘話なども明かされる。この歌番組の戦後史を辿(たど)ることで、著者は三つの試みを行っている。日本社会の故郷喪失と再生、戦後歌謡史の歩み、歌詞を通しての日本人の心情分析。紅組司会が宮田輝という男性アナウンサーになったとき、中村メイコという司会者が「等身大の主婦」であったとき、歌手が紅白出場を断らなくなったとき、過疎化する農村を意識しての紅白の村まつり化、人生応援歌で人びとを励ます紅白への変化など、この番組は時代の中でその役割を変えていく。
 著者の調査は緻密(ちみつ)、分析は具体的で、著者自身の心情も窺(うかが)うことができるので説得力を持っている。巧みに戦後日本の正直な姿が語られていて驚かされる。たとえばしだいに軽くなっていく演歌に対して、77年の紅白で、ちあきなおみが歌った「夜へ急ぐ人」に司会の山川静夫が「何とも気持ちの悪い歌ですねえ」と感想を洩(も)らした。この発言にこだわる著者の目は紅白の本質に迫っている。このような分析は、永六輔、阿久悠の歌詞の紹介、フォークソングの語り口などにもあらわれていて、紅白歌合戦はまさに〈安住の地〉を求める日本人の大晦日(おおみそか)の儀式であり、保守基盤の確認だった。
 2012年の美輪明宏の「ヨイトマケの唄」の記述は感動的である。
     ◇
 筑摩選書・1785円/おおた・しょういち 60年生まれ。社会学者(テレビ文化論)。『アイドル進化論』など。

関連記事

ページトップへ戻る