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HELLO WORLD―「デザイン」が私たちに必要な理由 [著]アリス・ローソーン

[評者]隈研吾(建築家・東京大学教授)

[掲載]2013年12月22日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能

表紙画像

■消費して生きるという原罪性

 デザインの現在がわかるだけでなく、時代の核に直接さわる臨場感、スピード感があった。今やデザインが、企業の命運だけでなく、時としてコミュニティーや国の未来を、決定し始めたからである。ジョブズが率いたアップル社のデザイン戦略は、そのようにして、この10年の世界をふりまわした。ジョブズも、秦の始皇帝のデザイン政治とともに、この本の主役である。
 ではデザインの何がどう変わることで、世界を動かすようになったのか。まず「物」をデザインする時代が終わり、人と人とのコミュニケーションという非物質的領域が、デザインの主戦場となった。
 さらに主役がデザイナーから、「みんな」へと変わった。ネット時代においては、誰もが自分自身でデザインしたいし、それが可能となった。デザインが特定の「物」や企業にのみ奉仕して、「みんな」や環境に害を与えると、即座に糾弾され、炎上する。デザイナーは、この決定的に新しいデザインの拡散と民主化の状況の中で、依然として特権的専門家から抜け出せない自己矛盾に苦悶(くもん)し、新しい領域に挑戦して、自己を解体していく。
 結果として浮き彫りにされるのは、デザインという行為の本質的犯罪性である。いいかえれば、私と「みんな」、個と環境に横たわる大きな裂け目であり、矛盾である。
 なかでも象徴的な一節は、著者自身が愛用する、某電動歯ブラシへのクレームである。白い歯を作る性能において非の打ちどころがないが、無駄なパッケージと、分解不能なプラスチックの利用において、環境破壊的な、最低のデザインだと、著者は絶叫する。そこまでわかっていながら、そのブラシを使っているあなたって、いったい何なの?
 著者は、自分の矛盾を告白するだけでなく、デザインというものの矛盾を、さらに、物を消費していくしか生きられないという、人間存在の原罪性までをも、さらけ出す。
     ◇
 石原薫訳、フィルムアート社・2730円/Alice Rawsthorn デザイン評論家。米紙などにコラムを執筆。

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