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野生のオーケストラが聴こえる―サウンドスケープ生態学と音楽の起源 [著]バーニー・クラウス

[評者]佐々木敦(批評家・早稲田大学教授)

[掲載]2013年12月22日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能

表紙画像

■耳を澄ませば現れる「音の風景」

 バーニー・クラウスは、スタジオ・ギタリストとしてキャリアをスタートさせた。ポール・ビーヴァーと出会い、二人で『地獄の黙示録』『ローズマリーの赤ちゃん』などの有名映画やテレビの音響を手掛けると共に、ビーヴァー&クラウスとして5枚の不思議なアルバムを発表した。
 だがビーヴァーが急逝し、独りになったクラウスは、40歳で音楽業界を去って大学院で海洋生体音響学を専攻、クリエイティブ・アートの博士号を取得した。本書は「サウンドスケープ(音の風景)」の先駆者であるクラウスの半・自伝であり、彼の考えを開陳した一冊である。
 「自然の音を求めて音楽業界を後にしたと思われるかもしれないが、そうではなく、音楽業界にいたからこそ自然の音を発見できたのである」。彼が取り組んできたのは「音の哲学」ではない。あくまでも「聴くことの実践」である。レコーディング・スタジオで得た技術や知識、マイクとヘッドホンは、サウンドスケープの探究に欠かすことの出来ないものとなる。
 音とは物理的な振動現象だ。人間の耳を機械的に拡張すること。そこには「音の風景」が、聴覚的な「自然」が、つまり「世界」が鮮やかに立ち上がる。クラウスはそれをオーケストラと呼ぶ。本書には、彼が発見した「音の風景」のエピソードが記述されている。豊かで、複雑で、美しい、自然が奏でる音楽。それらの音響は、インターネット経由で読者も聴くことが出来るようになっている。
 だが、ほんとうに重要なのは、実はそのことではない。「レコーダーはレコーダーなしでどう聞くかということを学ぶための道具」だとクラウスは言う。誰もが彼のように集音マイクを抱えて密林に入っていけるわけではない。ただ、その場で、耳を澄ましてみればよいのだ。すると必ず何かが聞こえてくる。サウンドスケープはどこにでもある。
     ◇
 伊達淳訳、みすず書房・3570円/Bernie Krause 38年生まれ。ナチュラリスト。音響生態学者。

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