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ブラック企業ビジネス [著]今野晴貴

[評者]水無田気流(詩人・社会学者)

[掲載]2014年01月12日

[ジャンル]社会 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■信頼を食い潰すビジネスの論理

 昨今頻繁に目にする「ブラック企業」という言葉。だがその実態や社会背景は、今なお正しく認識されているとは言い難い。『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』で、単なる違法企業の問題ではなく、私たちの社会そのものに巣食う悪弊として問い直した筆者による続作。本書ではより具体的に、ブラック企業の業態を助けるさまざまな「ビジネス」を詳解している。
 たとえば、ブラック企業を法制度面から支える弁護士や社会保険労務士のような「ブラック士業」という存在。彼らは過酷な雇用環境に対し声をあげた当事者を、脅しや法制度の意図的誤用などの手法を用い追い込んで行く。企業も士業も、利益を生むための行動はすべて「正義」というビジネスの論理。だが、社会全体からすれば部分の最適化に過ぎず、結果として弊害をもたらすと、筆者は警鐘を鳴らす。
 学生の就職率を上げたい学校も、ブラック企業ビジネスの加担者となる。なるほど、大量の新卒者を採用して使い潰すブラック企業は、学卒時点での就職率かさ上げに大いに寄与する。大学教員として勤務する評者にとっても他人事(ひとごと)ではない。またブラック企業の実態を知らず、正社員の座を死守せよと叱咤(しった)激励する家族も、結果としてブラック企業ビジネスの隆盛に寄与する。このような現状を、筆者は日本の社会システム全体のブラック化と呼ぶ。
 ブラック企業は、従来の社会関係の「信頼」や「善意」を食い潰すことで自らの利益を得ている。好業績な企業の正社員であれば一生安泰との信頼感は、既存の安定した社会関係の中で育まれてきた社会的資産だ。これを悪用するブラック企業とは、究極のフリーライダー(ただ乗り)かもしれない。背景にあるのは、ビジネスの論理の社会への浸透。本書で語られた、ビジネスとは別種の社会正義の論理に基づく専門知識と対抗策は、極めて重要である。
    ◇
 朝日新書・798円/こんの・はるき 83年生まれ。NPO法人POSSE代表。『ブラック企業』で大佛次郎論壇賞。

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