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福島第一原発観光地化計画 [編]東浩紀

[評者]隈研吾(建築家・東京大学教授)

[掲載]2014年01月19日

[ジャンル]社会

表紙画像

■「ここにあるもの」と向き合う

 表紙を見ただけで時代の大きな転換を感じずにいられなかった。震災、原発事故で大きなダメージを受けた福島をテーマにした本が、これほどに派手で、サブカル系ムックを思わせる表紙をまとったことに。中も図版が多く、しかも同じ調子で明るく楽しく、いわゆる震災本の暗く沈んだ反省調とは対照的である。しかも知識人が集まりながら、議論に終わらず、具体的提案満載であるところがすごい。何かを提案すること自体に、臆病で及び腰になってしまった昨今の日本を突き抜けている。個々のデザインがあまりに1960年代風であるのがちょっと気になったが、とりあえず、形にしてしまう勇気がさわやかである。
 明るさの裏には、観光化によって、工業化社会を超えていこうという、強いメッセージがある。工業化社会のあとを生きているという冷静な時代認識に基づき、観光化の可能性が追求されていて、説得力がある。
 20世紀において、観光は、本業(工業)の脇の息抜きであった。しかし今、観光こそ経済の主役であることが認識され、観光を通じて文化の本質へと接触する方法が追求され、観光を通じての文化の再構築の可能性すら示唆される。
 この本は、編者、東浩紀自身の力強い告白と読むこともできる。今までの自分は、「ここにはないもの」を探して、哲学、文学、ネット、サブカルの世界にいたが、これからは、「ここにあるもの」とも向き合っていこうと。「ここにあるもの」から、この表紙にみなぎるポジティブな明るさが発散されるのだろう。高度成長以降数十年の「ここにはないもの」を中心に動いてきた日本の文化を転回させようという本とも読める。「ここにあるもの」と向き合い、哲学、文学を復興させようとする東は頼もしい。震災と原発事故が、ポジティブに時代を展開させる可能性が、われわれを大いに勇気づける。
    ◇
 ゲンロン・1995円/あずま・ひろき 71年生まれ。批評家、作家。著書に『動物化するポストモダン』など。

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