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寿命100歳以上の世界―20××年、仕事・家族・社会はこう変わる [著]ソニア・アリソン

[評者]萱野稔人(津田塾大学教授・哲学)

[掲載]2014年01月19日

[ジャンル]科学・生物 社会

表紙画像

■150歳まで死なない未来を予測

 もし私たちの平均寿命が150歳になったら、生き方や社会のあり方はどのように変わるだろうか。働き方ひとつとっても、65歳定年とはいかなくなるだろう。家族についても、孫やひ孫だけでなく玄孫や来孫の姿もみることができるようになり、他方で離婚・再婚も増えるだろうから、家族は拡大し、そのあり方も複雑になるにちがいない。人口動態さえ今とは違ったものになるだろうし、必要な社会政策も現在とは大きく異なってくるはずだ。
 本書はそうした変化がけっして絵空事ではないことを強調する。医学やバイオテクノロジーの革命的な進歩によってヒトの平均寿命はこれから劇的に延びていくだろう、と。本書が予測するヒトの平均寿命は150歳だ。それにともない健康寿命も延びていく。もちろんこの予測に対しては、にわかには信じられないという意見もあるにちがいない。しかし、20世紀の前半でさえ、その数十年後には先進国の平均寿命が80歳に届くなんてことを多くの人は予想できなかった。事実、過去2世紀のあいだにヒトの平均寿命は全世界的にみても2倍以上延び、その内容も子どもの死亡率が低下しただけに留(とど)まらなかったのだ。
 寿命が劇的に延びれば、私たちの生き方だけでなく世界観そのものも大きく変化するだろう。死が遠のけば、宗教のあり方だって変わらざるをえない。そもそも人類がこれ以上寿命を延ばすことは、幸福という点からいっても地球環境の点からいってもよいことなのだろうか、という疑問もわく。いつか死ぬのが人間ならば、これ以上のあがきは人間の本質を崩壊させてしまうかもしれない、と。しかし他方で、死を何とか遠ざけようとしてきたのも人間だ。最新の科学の動向から経済社会の動態、哲学的な問題まで、本書は寿命の延長という視点から人間という存在について多くを考えさせてくれる。
    ◇
 土屋晶子訳、阪急コミュニケーションズ・2205円/Sonia Arrison 米国の研究機関の上席研究員。コラムニスト。

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