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「流域地図」の作り方―川から地球を考える [著]岸由二

[評者]川端裕人(作家)

[掲載]2014年01月19日

[ジャンル]社会 新書

表紙画像

■人工的境界、取り払ってみると

 昨夏の日本は高温多雨で、台風も多かった。水の被害も相次いだ。その際、警報などの範囲が市区町村であることに違和感を抱いた人はどれだけいるだろうか。多くの水害は、行政区ではなく流域単位で起きるのに……。
 著者は「流域思考」を提唱し、流域単位での生物多様性の保全を提案実行してきた。東京都町田市を源流に横浜市で海に注ぐ鶴見川。三浦半島の全長1・2キロメートルの川が作る森。この2カ所の保全に力点を置く書籍をこれまで上梓(じょうし)している。その際、対になって語られてきた「治水」が本書で前景化した。
 基本となるのが「流域地図」だ。通常の地図では、道路や鉄道、行政区分が重視される。小さな川や蓋(ふた)をされた暗渠(あんきょ)は省略されている場合が多い。市境など「人工的」な境界は分かっても流域の境界、分水界は分からない。一方、流域地図は「自然な」位置について良好な見通しを与える。
 著者が表記する「自然の住所」の例。
 ——日本列島・本州島・関東平野・多摩三浦丘陵群・鶴見川流域・矢上川支流流域・松の川小流域・まむし谷流域・一の谷北の肩。
 人工的区分を使わずに自分の足下と世界がつながる。水災害で言えば、100キロ離れた上流の豪雨が下流にとって脅威だと直観できる。さらに進めて治水と保全をセットで行う実践としては、鶴見川流域の「水マスタープラン」が詳述されている。自治体の枠を超えて健全な水循環を実現することは、今後の我々の大テーマとなるだろう。
 さらに地球温暖化についての重要な指摘。温室効果ガス削減による「緩和策」では追い付かず「適応策」が必要という科学的合意があるのに、なぜか日本では「緩和策」ばかり議論される。昨夏のような水災害が増える見込みは高く、流域単位での「適応」はその意味でも必須なのだ。
    ◇
 ちくまプリマー新書・777円/きし・ゆうじ 47年生まれ。慶応大名誉教授(進化生態学)。著書に『自然へのまなざし』。

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