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ケネディ暗殺 ウォーレン委員会50年目の証言(上・下) [著]フィリップ・シノン

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2014年01月26日

[ジャンル]歴史 政治

表紙画像

■「20世紀の病」の真相あばきだす

 ジョン・F・ケネディ米大統領の暗殺は、20世紀の人類史とアメリカ社会の病ではなかったか。1963年11月22日という日を同時代の人びとは、あの日は何をしていたか、記憶しているように思えるほどだ。私自身、これまで同年代のアメリカ人はもとよりイギリス人やロシア人からも、あの日の自らの行動を聞かされた。
 ケネディは誰になぜ殺されたのか、本書はジャーナリストの王道を歩いている著者が、この真相をさぐるために設立されたウォーレン委員会(委員長=アール・ウォーレン最高裁首席判事)の調査スタッフや当時の関係者を訪ね歩く一方で、非公開の文書を含めての史料分析により、ウォーレン委員会の報告書作成のプロセスとその内容についてまとめあげた書である。2008年に取材を始めて13年(暗殺から50年)に書きあげ刊行したという意味では、現在のところもっともその真相に迫った、あるいは次代の目で事件の本質を描きだしたといえるだろう。
 ウォーレン委員会は7人の委員のもと、アメリカ国内の優秀な若手法律家を動員して、ほぼ10カ月をかけて「最終報告書——厚さ十センチ、八百八十八ページ、総語数二十九万六千語——」をまとめた。その結論は、オズワルドの単独犯行ということになるのだが、著者はその方向を追い求めながら自らの結論ははっきりとは出さない。なにしろこの暗殺には、調査スタッフによると「百二十二の『臆測と噂(うわさ)』」があり、その一覧表を作成してひとつひとつに検証を加えたというのである。
 あえて「人類史とアメリカ社会の病」と書いたのは、東西冷戦時の米ソ軍事対立によるキューバ危機、アメリカ社会の公民権運動、石油資本の反ケネディの動きなどがあり、そこに共産主義に関心を持ちソ連に入国して、ロシア人女性と結婚した青年オズワルドの不審な動き、さらには彼を射殺する酒場店主ルビーの妄想など、とにかく20世紀のあらゆる現実が窺(うかが)えるからだ。政治家たちの計算やオズワルドの母親の奇妙な心理など委員会スタッフの調査はその病の百態を次々にあばきだしていく。
 本書は幾つかの新事実も教えている。カストロが自分は関係ないと調査スタッフに伝える話、メキシコシティーのFBIやCIAの奇妙な動き、ジョンソン大統領やフーヴァーFBI長官の複雑な心情なども丁寧に描く。核戦争の恐怖、東西冷戦下の不安と猜疑心(さいぎしん)、20世紀が抱えこんだ病とはこのことだと気づく。19世紀のリンカーン、20世紀のケネディ、アメリカの現職大統領の暗殺にひそんでいるのは、歴史が一歩前に進むとき、得体(えたい)の知れない青年を野に放つということだろうか。
    ◇
 村上和久訳、文芸春秋・各1680円/Philip Shenon 元ニューヨーク・タイムズ記者。ワシントン支局で国防総省、司法省、国務省などを担当。9・11テロの調査委員会がなぜ真実に到達できなかったかを描いた『The Commission(委員会)』を2008年に出した。

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