書評・最新書評

鮭鱸鱈鮪 食べる魚の未来 [著]ポール・グリーンバーグ

[評者]内澤旬子(文筆家・イラストレーター)

[掲載]2014年01月26日

[ジャンル]科学・生物

表紙画像

■生存可能な環境と方策を検証

 もうすぐ鮪(まぐろ)が食べられなくなるようだ。その前に一度だけ大トロを食べてみたいと、始発電車に乗って築地卸売市場内にある寿司屋(すしや)に行った。
 あれから10年近く経つ。鮪は相変わらず何事もなく出てくる。それどころか寿司は日本だけでなくアジアや欧米でも大人気だ。
 そんなに沢山(たくさん)食べていて本当に大丈夫なんだろうか。
 本書の俎上(そじょう)に載ったのは、鮪の他に、鮭(さけ)、鱸(すずき)、鱈(たら)、合計4種の大きい食用魚。釣り好きのアメリカ人エッセイストである著者は、乱獲によって絶滅の危機に近づきつつあるこれらの魚たちの漁や養殖の現場に出向き、それぞれの魚が生存するのに必要な環境がどれくらい保全されているのか、どんな方策がとられているかを検証していく。
 一番衝撃だったのは鮭だ。卵が大きいこともあり、どの魚よりも早く養殖技術が開発された。陸の家畜飼養で培った技術を元に、ノルウェーでたった14年で成長速度を2倍になるよう品種改良されていた。3キロ弱の餌で1キロの鮭が育つ。ちなみに豚も3キロの餌で1キロ肥(ふと)る。それが鮭の自力では水温が高くて越えられない赤道を越え、チリで大量に生産されているのだ。牛を船に乗せて南米大陸に持ち込んだスペイン人の姿と重なる。
 しかも狭い場所で大量に飼養すると、疫病が発生するし、海を汚染もする。大規模畜産と養殖がこんなに似ているとは思わなかった。
 長らく畜肉を主に食べてきた欧米人著者と魚食民である我々では、鯨についてなど見解の異なる点は多々ある。
 けれども世界有数の魚食いであるからには、海洋資源の現状に目を向け、環境に影響を及ぼさない養殖の方法など、野生種の生存を保全しながら、魚を食べ続けるための真摯(しんし)な提案に耳を傾けたい。海洋は陸上ほどは開発されておらず、野生種の生息地の多くがまだ再現可能だそうだから。
    ◇
 夏野徹也訳、地人書館・2520円/Paul Greenberg 67年生まれ。エッセイスト。漁業や環境問題などを執筆。

関連記事

ページトップへ戻る