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殺人犯はそこにいる―隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件 [著]清水潔

[評者]福岡伸一(青山学院大学教授・生物学)

[掲載]2014年02月09日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■執念に満ちた取材で闇に迫る

 たいへんな問題作である。著者は桶川ストーカー事件で犯人を突き止め、警察の怠慢を暴いた記者。彼の嗅覚(きゅうかく)は栃木県足利市で1990年に起きた幼女誘拐殺人事件を巡る経緯の不自然さを捉えた。
 パチンコ店から4歳の女児が連れ去られ、翌日、無残な姿で発見された。91年、市内に住む45歳の独身男性が逮捕された。本書は、著者がこの事件を調べ始めた07年から始まる。
 執念に満ちた取材で、自供の矛盾点、捨て去られた目撃証言、最有力証拠だったDNA型鑑定の問題点を次々とあぶり出す。著者のナイーブなまでの正義感、過剰な自分語りがねっとりとまとわりつくが、それが却(かえ)って読む者をわしづかみにする。報道が奏功し、DNA再鑑定の道が開かれ、ついに09年、無実の罪で17年間獄中にあった男性、菅家利和氏が釈放される。
 ならば真犯人は? 本書の核心はここにある。実は菅家氏逮捕後、類似の事件が隣市で起きていた。著者はある人物を突き止めた。ルパン三世に似た男。警察に情報を提供したが動かない。なぜか。著者は疑う。もし真犯人が逮捕されれば、過去のDNA型鑑定の誤りが明白になる。すると同じ鑑定で死刑が執行された飯塚事件はどうなるか(警察は「犯人のDNA」は鑑定で全量消費されてしまったと言う。本当か。DNAは簡単に増幅できる。試料を全量使うことと半量使うことの間に質的な差は出ない。慎重な研究者なら原試料の一部を保存しているはずだ)。著者の推測通りなら、司法の威信が根幹から揺らぐ。隠蔽(いんぺい)された闇は限りなく深い。
 ただ本書には重大な欠陥がある。どうやってルパンを特定できたのか。機微なことが一切書かれていない。ひょっとしてそれは欠陥ではなく意図的? そうか、著者は全く諦めていないのだ。最強のカードを切る瞬間を計っているのだ。これから何かが始まる。そんな予感がする。
    ◇
 新潮社・1680円/しみず・きよし 58年生まれ。日本テレビ報道局記者・解説委員。『遺言』など。



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