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誕生日を知らない女の子―虐待——その後の子どもたち [著]黒川祥子

[評者]田中優子(法政大学教授・近世比較文化)

[掲載]2014年02月09日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■「根っこが張れる場所」を社会に

 本書は虐待の後遺症を、事実をもって詳細に書いたドキュメンタリーである。
 本書の最初に「一体どれほど、子どもの側に立って虐待を見ていたのだろう」という著者の述懐がある。私自身もしだいに、自分の虐待への視点が間違っていたことに気付いた。「なぜ親はこんなことをしたのか?」と問うことは、子どもにとって意味をなさない。では虐待という事実をみつめよう。その場から子どもを救い出しさえすれば問題は解決する。しかしそれも違っていた。脳や心に深い傷を負った子どもたちは、その後も容易には生きられないのである。幻視や幻聴に苦しむこともある。自分を守るために心に生じた乖離(かいり)にふりまわされることもある。彼ら自身の責任ではない。子どもの側に立ったとき、虐待がいかに人間を生涯にわたって傷つけてしまう行為であるか、とことんわかってくる。
 一章ごとに名前がついている。ひとりひとりの子どもに寄り添って書いているのだ。ファミリーホームと呼ばれる多人数養育をする里親の家でも取材している。里親たちの苦労はひととおりではない。しかし各章の末尾で、娘が里母と一緒に笑い、息子がふつうにご飯をぱくぱく食べ、リビングで身を寄せ合って夜を過ごす、という当たり前の姿を垣間見るとき、どれだけ深く傷ついていても信頼できる人間に囲まれた安心できる場所、本書でいうところの「根っこが張れる場所」さえあれば、子どもたちの障害は必ず軽くなる、それどころか強い共感能力さえ育つのだ、という確信が持てる。そういう希望に満ちた本でもある。
 人というものは社会で生きることの困難さを抱えている。だからこそ「根っこが張れる場所」を、子どもに用意することがいかに大切であるか、痛感させられる。個々の家庭に期待するだけではもう難しい。社会全体で取り組むべき問題であろう。
    ◇
 集英社・1680円/くろかわ・しょうこ 59年生まれ。フリーライター。本作で開高健ノンフィクション賞を受賞。



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