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天皇と葬儀―日本人の死生観 [著]井上亮

[評者]荒俣宏(作家)

[掲載]2014年02月16日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■古代から「極力質素に」望む

 天皇・皇后両陛下の意向により従来の天皇葬儀を見直し、土葬を火葬に改めるという報道が、昨年流れた。「国民生活に影響を与えぬため」という理由を含めて大改革と受け取れそうだが、じつは古代から天皇は自身の葬儀に関し、極力質素に行うよう遺言を残していた。中には山に散骨することを望んだ天皇までいたのである。
 古代の天皇は葬儀万端を宮中の専門職に仕切らせ、各自の考えにより土葬か火葬かを決した。それも神道VS.仏教という宗教理念が基本になったのは天武朝あたりからで、古くは大陸文化への憧れなどスタイル問題だった場合も多いらしい。さらに長い殯(もがり)の期間には、天皇位をめぐって壬申の乱のような後継者争いが生じ、内乱になることもあった。本書はそうした「忘れられた天皇葬儀」の歴史を分かりやすく一望させるだけでなく、この視点から日本史を読み解く試みも加えており、読んで退屈させない。
 たとえば北朝四代の後光厳天皇からは、泉涌寺が「皇室専用葬儀社」となり、天皇の葬儀を寺の専業とする。
 その裏事情を知って仰天した。このとき北朝は、譲位するべき光厳上皇の身柄も三種の神器も南朝側に押さえられており、践祚(せんそ)の儀式が行えない。窮余の策として、後光厳には上皇の生母から譲位するという前代未聞の方式がとられた。後光厳は37歳で病死するが、これでは葬儀を寺に丸投げするしかなかったろう。
 歴代天皇の「死因」も興味深い。本書では、臣下に殺された天皇、呪い殺された天皇、自殺した天皇などの例が語られるが、できればもっと詳細に読みたかったのが「感染症」の解説である。
 とりわけ飛沫(ひまつ)・接触感染の「王者」といえる天然痘は古代から多くの天皇の命を奪っており、南北朝争いでひどい目に遭った、じつに気の毒な後光厳もこの病気で亡くなっている。
    ◇
 新潮選書・1680円/いのうえ・まこと 日本経済新聞社編集委員。『非常時とジャーナリズム』『焦土からの再生』



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