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民間交流のパイオニア―渋沢栄一の国民外交 [著]片桐庸夫

[評者]渡辺靖(慶応大学教授・文化人類学)

[掲載]2014年02月23日

[ジャンル]社会

表紙画像

■米・中・韓との関係改善に腐心

 「日本資本主義の父」として名高い渋沢栄一(1840〜1931年)。
 黒船来航による西洋の衝撃に触発された彼が生涯に設立した企業は何と500社余り。医療福祉や教育など社会組織の数は600に及ぶ。
 「企業の社会的責任」や「社会起業家」への関心が高まる昨今、倫理と利益の両立による経済発展を説く渋沢の『論語と算盤(そろばん)』は改めて脚光を浴びている。
 その一方、彼が人生最後の四半世紀、まさに身を削る思いで取り組んだ民間交流=「国民外交」については十分に理解されているとは言い難い。本書はその実像と本質にフェアな筆致で迫った力作。
 渋沢の「国民外交」の射程は日仏会館(東京)の創設から「民間の国際連盟」を目指した太平洋問題調査会(IPR、ホノルル)への関与に至るまで多岐に亘(わた)った。ノーベル平和賞の候補に2度も挙がったほどである。
 その彼がとりわけ腐心したのが米国・中国・朝鮮との関係改善。政治・軍事的な国益論とは一線を画し、通商・実業上の関係緊密化こそが安全保障の確保や平和の達成に通じるとの信念から、その知的基盤を成す対話や交流を次々と手がけていった。
 本書で特に興味深かったのは、当代随一の国際派だった渋沢でさえ、中国や朝鮮の民衆の民族主義を過小評価したという著者の分析だ。
 それゆえ、例えば中国に対して渋沢は「政経分離」の原則の無謬性(むびゅうせい)を過信する結果となり、徐々に政治・軍事的な国益論に接近していったという。現代的な含意に富む鋭い指摘である。
 今日、日本にとって米中韓の重要性は一段と増している。しかし、その半面、財界における民間交流の牽引役(けんいんやく)の老齢化や先細りを懸念する声は少なくない。
 渋沢の志に少しでも共鳴する若手中堅の経済人に薦めたい一冊である。
    ◇
 藤原書店・4830円/かたぎり・のぶお 48年生まれ。群馬県立女子大教授(国際関係学、外交史)。渋沢研究会顧問。

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