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図説 滝と人間の歴史 [著]ブライアン・J・ハドソン

[評者]横尾忠則(美術家)

[掲載]2014年02月23日

[ジャンル]社会

表紙画像

■原始と文明、イメージの変化は

 滝の研究書が国内で出版されるのは大変珍しい。かつて滝の絵はがき1万3千枚を収録した私のコレクション集を出したことがあるが、それはビジュアル本である。ある時期、頻繁に滝の夢を見たことがあり、夢に導かれるように諸国滝巡りが始まった。その結果、滝のシリーズ作品が生まれた。
 滝は観光スポットであると同時にわが国では信仰の対象でもあり、修行の場としても古くから聖地として崇敬されてきた。時には他界への入り口として自殺の名所にも。
 ところが海外では事情が異なる。ピクチュアレス的(絵になる風景)な瀑布(ばくふ)は、アドベンチャー体験を目的として滝壺(たきつぼ)近くまで遊覧ボートやヘリを大接近させ、観客の肝を冷やすかと思うと、樽(たる)の中に入って滝を落下したり綱渡りに挑戦したり。また目を奪うような華麗な光のショーを演出して観光客を魅了する。
 本書は滝と人間の歴史をたどりながら、原始と文明の狭間(はざま)で滝イメージがどう変化したか、多くの写真や図像で示しながら論考を展開する。滝は文学、絵画、映画などの題材にもなり、シャーロック・ホームズのライヘンバッハの滝は有名、三島由紀夫の『沈める滝』、ターナーやドレの絵、モンローの「ナイアガラ」やターザン映画など、滝とロマンを描いた作品は枚挙にいとまがない。
 滝が大気に放つ潤いは精神に安らぎを与えるが、滝はまた死や性を想起させる。落下する滝、受け入れる滝壺は両性具有の象徴でもある。
 滝はその崇高さと神秘的な美観により人々を魅惑し続ける一方、現在は水力発電のためのダム建設や工業化に伴って滝の生命の「略奪が急速に増加」し、枯渇の運命をたどっている。
 人間と自然の繋(つな)がりの中で滝の持つ意義は大きい。ありきたりな言い方になるが、滝の消滅は生物の生存の危機の予兆でもあるのだ。
    ◇
 鎌田浩毅監修・田口未和訳、原書房・2520円/Brian J.Hudson オーストラリアの土木工学研究者。

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