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デレク・ベイリー インプロヴィゼーションの物語 [著]ベン・ワトソン

[評者]佐々木敦(批評家・早稲田大学教授)

[掲載]2014年03月09日

[ジャンル]人文 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■世界に向きあう自由のレッスン

 デレク・ベイリーは英国のギタリスト。1930年に生まれ、2005年に没した。彼はフリー・インプロヴィゼーションと呼ばれる特異な音楽の創始者のひとりとされている。著者ワトソンは、ベイリー本人と関係者への取材を基に、この大部の評伝を書き上げた。原著の刊行以来、音楽ファンの間では邦訳が待ち望まれていた。日本語にしたのはベイリーの不朽の名著『インプロヴィゼーション』の訳者でもあり、本人とも長年に及ぶ親交があった木幡和枝氏である。
 典型的な労働者階級の一家に生まれ、やがて音楽に興味を持ち、ギター奏法を独習し、プロのギタリストとして稼ぐようになったベイリーは、10年近い月日を商業的な音楽の世界で過ごした後、ジャズのアドリブとは全く異なる「即興演奏」の可能性を発見し、追究し始める。それは過去には存在していなかった決定的に新しい音楽だった。だが彼は孤独ではなかった。60年代半ばという時代の気風もあってか、彼の周囲には同志というべき音楽家が何人も居た。ベイリーはやがて商業音楽と完全に決別し、自ら「フリー・インプロヴィゼーション」と名付けた「新しい音楽」に残りの人生を捧げることになる。
 ワトソンの質問に答えるベイリーの言葉は、率直でありながら、ユーモアとウイットに富んでいる。同時に、真摯(しんし)さと厳格さに溢(あふ)れてもいる。「インプロヴィゼーション=即興」であるからといって、それは出鱈目(でたらめ)とは全く違う。ギターであれ何であれ、その楽器に徹底的に習熟した上で、それを乗り越えるようにして、ありとあらゆる「音楽」の起源に潜在する一度切りの「自由=フリー」に賭けること。「フリー・インプロヴィゼーション」とは「世界」に向き合う「自由」のレッスンでもあるのだ。つまりこれは、けっして「音楽」だけの話ではない。
    ◇
 木幡和枝訳、工作舎・5040円/Ben Watson 56年、ロンドン生まれ。音楽/文化批評家。

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