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無形民俗文化財が被災するということ [著]高倉浩樹・滝澤克彦

[評者]渡辺靖(慶応大学教授・文化人類学)

[掲載]2014年03月09日

[ジャンル]社会 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■難題に向き合う地域の民俗誌

 3・11で甚大な震災被害を被った沿岸部地域は日本でも有数の無形民俗文化財(民俗芸能や祭礼など)の宝庫である。しかし、無形ゆえに再開は難しく、それゆえに地域住民の葛藤も深い。
 本書は宮城県沿岸部の地域社会がこの難題にどう向き合ったかを描いた民俗誌であり、当事者や行政関係者による思弁の記録でもある。
 祭礼の中に敢(あ)えて震災の苦しみを閉じ込めることで、日常においては震災を忘れることができる……といった言葉のなかに〈文化〉の奥深さと重みを改めて思い知らされる。新聞やテレビが伝えきれていない、小さくも大切な言葉に満ちた一冊だ。
 毎年、世界のどこかが自然の猛威に見舞われては、地域の伝統芸能や儀礼が存亡の危機に晒(さら)されている。人間の尊厳に関わるこうした文化的次元について3・11の教訓を広く世界と共有し、叡智(えいち)を積み重ねてゆくことも「積極的平和主義」が忘れてはならない課題の一つである。
    ◇
 新泉社・2625円


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