書評・最新書評

第五の権力―Googleには見えている未来 [著]エリック・シュミット、ジャレッド・コーエン

[評者]原真人(本社編集委員)

[掲載]2014年03月16日

[ジャンル]社会

表紙画像

■ネット先導者が示す明と暗

 インターネット社会の未来を描く本はあまたあるが、本書はそんじょそこらの解説書ではない。なにしろ高度情報社会の最強企業、グーグルのエリック・シュミット会長がみずから書いた本なのだ。
 シュミットらはネット空間を「とてつもない善を生み出すとともに、おぞましい悪をもはらんでいる」存在だとみなす。夢をふりまいてきた先導者が暗部についてもふれたのはやや意外だったが、現実世界では証明ずみのことではある。ネットは「アラブの春」で独裁国家をひっくり返す力になったが、米国が他国や個人から情報を集め監視する道具にもなっている。
 とはいえ本書は基本的にその未来を楽観している。テロリストがより多くのテロ手段を手にしたとしても、ネット社会の監視の目をくぐり抜けて潜伏するのはずっと難しくなる。サイバー戦争が増え、攻撃や防御の方法はより複雑になるが、仮想戦線が現実の戦争を抑止する可能性もある。そう正当化するのだ。
 グーグル首脳が政治社会や安全保障への影響をここまで丹念に予測し分析していたことには正直、薄気味悪さも感じる。同社の軍事ロボット企業の買収やメガネ型端末の開発も行き当たりばったりの判断でなく、確信にもとづく投資だったのだ。未来技術を生みだしていく者たちの動機をうかがい知るのに、本書は貴重な資料になると思う。
 ただし、ここで語られていないこともある。膨大な個人情報を集めるグーグル自身によるプライバシー保護はどうなのか。ビッグデータ独占の弊害は考えられないか。米政府の個人情報収集に協力したのではないか。そういう疑問や疑惑に対する説明がない。
 もし巨大情報産業が陰謀を巡らしたら、ネット社会はどうなるのだろう。邦題「第五の権力」は将来ネットとつながる80億人の市民を意味するが、まるでグーグルのことを暗示しているようでもある。
    ◇
 櫻井祐子訳、ダイヤモンド社・1890円/コーエンは81年生まれ、グーグルのシンクタンク創設者兼ディレクター。


関連記事

ページトップへ戻る