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彼女の家計簿 [著]原田ひ香

[評者]水無田気流(詩人・社会学者)

[掲載]2014年03月16日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■「規格外」の女たちを救う絆

 暮らすこと、食べていくこと、そして子どもを育てること。それらのいとなみを覆う「主婦」「妻」「母」といった名称と内実との間に横たわる深い溝は、どこから来るのだろう。この物語に登場するのは、みな規格外の生活を送る女たちである。未婚の母として生きてきたプログラマーの里里(りり)、水商売や元AV女優などの経歴をもつ女性たちの就労支援を行うNPO代表の晴美、そして家庭というものから奇妙に縁遠い里里の母、朋子。彼女たちがふとしたきっかけから見つけた古い家計簿をめぐり、邂逅(かいこう)する。
 戦中から戦後間もない時期につけられた家計簿の主は、加寿という大正生まれの女性だ。夫を戦地に送り、姑(しゅうとめ)を助けながらやがて代用教員として子どもたちを見守ることとなる。そのいとなみの端々には、加寿の細やかな息遣いが宿る。やがて夫は戦地から帰還したものの、仕事もせず横柄に振る舞い、夫婦仲も思わしくない。そんな折、お互いに心惹(こころひ)かれた優しい同僚の男性教員が、加寿に駆け落ちを申し出るのだが……。
 戦後、バブル期、平成の世と、物語は時代を行き交う。その過程で、女性の生きづらさについての世代的な問題と普遍的な問題の双方が、静かに浮き彫りになっていく。規格外の女を救うのは、いつも女同士の絆だ。それは、家族関係からこぼれ落ちた女性たちの生活を掬(すく)い上げていく。
 男への所属という命題を失った女にしか見えない風景が、丁寧に素描された作品である。掟(おきて)破りならぬ家族破りの罪は、いつも女に過酷だ。不倫の末心中した、と最悪の家族破りの罪を着せられていた里里の祖母の真実の姿がやがて物語をまとめ上げていくが、読後はそれすらもこの社会の見えにくい闇に比べれば、よほど明るい。「家計簿」の表題に込められた思いは、言葉にならないこの罪の余白を、暮らしの中に吸い上げる意図、かもしれない。
    ◇
 光文社・1575円/はらだ・ひか 70年生まれ。作家。著書『人生オークション』『母親ウエスタン』など。


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