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国際メディア情報戦 [著]高木徹

[評者]福岡伸一(青山学院大学教授・生物学)

[掲載]2014年03月23日

[ジャンル]政治 社会

表紙画像

■世界の舞台裏での熾烈な戦い

 1992年の大統領選。現職のブッシュ(父)に挑むクリントン。テレビ討論会。会場から女子学生が国家財政の赤字について質問をした。カメラはスタジオ全体を広く捉えていた。その画面の隅で、質問の最中、ブッシュはチラリと腕時計を見た。この一瞬が命取りになった。この場面は繰り返し放送されることになる。「そんな質問は時間がもったいない」といわんばかりの傲慢(ごうまん)なイメージが人々の脳裏に深く刻み込まれた。
 これが本書のキーワードのひとつ「サウンドバイト」である。長い映像からワンシーンだけを意図的に切り出し、敵を倒す武器、あるいは味方を称揚する戦略として活用する。ブッシュはこれにやられたが、小泉純一郎は最大限に利用した。今や世界の舞台裏では、銃弾を使わないもうひとつの戦い、つまり情報戦が密(ひそ)かに、かつ熾烈(しれつ)なまでに見えない砲火を交わしている。
 ボスニア政府をクライアントとするPR会社ルーダー・フィン(PRとは広告のことではなく、イメージ戦略)のエキスパート、ジム・ハーフは、外相のテレビ出演における間の取り方を指導し、民族浄化という言葉を編み出してセルビア側にレッテルを貼り、ミロシェビッチ大統領をサダム・フセインに勝るとも劣らぬ極悪人に仕立て上げた。
 オバマの選挙、アルカイダのオープンソース・ジハード、はては五輪開催地争奪戦にいたるまで、あらゆる局面の背後にプロの仕事師たちが暗躍している。彼らはことを有利に進めるため、イメージを演出し、メディアを巧みに操作する。本書はその知られざる現場を活写して、テレビのスペシャル特番のごとく読者の関心を一気にわしづかみにする。それもそのはず、著者は大宅賞など総なめのノンフィクション界の旗手で、現役のNHK敏腕ディレクター。ときに、メディア情報戦で劣勢続きの自分の職場についてはどう捉えているのだろうか。
    ◇
 講談社現代新書・840円/たかぎ・とおる 65年生まれ。90年にNHK入局。『ドキュメント 戦争広告代理店』など。

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